或者あるもの)” の例文
が博士に推薦されたという報知が新聞紙上で世間に伝えられたとき、余を知る人のうちの或者あるものは特に書を寄せて余の栄選を祝した。
或者あるものは、身代金によって品子さんを買戻すことを提案した。或者は、犯人捜索に多額の懸賞金をつけることを発表せよと説いた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
其の或者あるものは、高波たかなみのやうに飛び、或者はあみを投げるやうに駆け、と行き、さっと走つて、ほしいままに姉の留守の部屋をあらすので、悩みわずらふものはただ小児こどもばかりではない。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
或者あるものは、鉱脈を掘り当てる為だといい、或者は温泉を掘る為だといい、或者は登山鉄道でも敷くつもりではないかといった。然し、野村はそんな浮説ふせつを全然信用しなかった。
久世太郎右衛門殿物語くぜたろうえもんどのものがたりに、前方此男出でけるに、腰に何やらん附けて居る故、或者あるもの近く寄りてそれを取り、還りて見れば高麗こうらい茶碗ちゃわんなり。今に其子の方に持伝へておりける由。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
或者あるものは、消しゴムを切ったものをつめたり、また或者は万年筆のキャップをつっこんだり、それから、また或者は一時の間にあわせに、綿栓をこしらえつばでしめして鼻孔に挿した。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
食事後しよくじご気分きぶんまえよりも一そう打寛うちくつろいだものであつたが、彼等かれら或者あるものなお未練みれんがましく私達わたしたちそばつてて、揉手もみてをしながら「キヤンニユスピイク、イングリシユ?」を繰返くりかえした。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
陪審官ばいしんくわんはそれを『必要ひつえう』ときつけ、また或者あるものは『不必要ふひつえう』ときつけました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「一厘も残りなく償わずば、という言葉もあるし、或者あるものには五タラント、或者には二タラント、或者には一タラントなんて、ひどくややこしい譬話たとえばなしもあるし、キリストも勘定はなかなかこまかいんだ」
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あへ未來みらいのことはいはず、現在げんざいすで姿すがたになつてるのではないか、した或者あるものは、き、び、或者あるものは、はしり、くらふ、けれどもきぬいでへびは、のこしたからより
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
現在すでにその姿になって居るのではないか、脱け出した或者あるものは、鳴き、つ飛び、或者は、走り、且つくらう、けれどもきぬを脱いで出た蛇は、残した殻より、必ずしも美しいものとはいわれない。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)