悲憤ひふん)” の例文
『えゝ、無責任むせきにんなる船員せんいん! 卑劣ひれつなる外人くわいじん! 海上かいじやう規則きそくなんためぞ。』と悲憤ひふんうでやくすと、夫人ふじんさびしきかほわたくしむかつた、しづんだこゑ
だが、しかし、その偵察機の上にも、同じ悲憤ひふんに、唇を噛みしめる軍人たちが、いて冷静をよそおって、方向舵ほうこうだあやつっていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いろいろな悲憤ひふんが胸に燃えてどこをどう歩いたかわからなかった、かれはひょろ長いポプラの下に立ったときはじめてわが家へきたことを知った
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
しかしながらかれ悲憤ひふんへぬこゝろさいなまうとするには與吉よきちいてまぬ火傷やけどがそれをおさへつけた。勘次かんじつかれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この事実にぶつかるごとに、子路は心からの悲憤ひふんを発しないではいられない。なぜだ? なぜそうなのだ? 悪は一時栄えても結局はそのむくいを受けると人は云う。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
啓吉は、当局者の冷淡れいたんな、事務的な手配と、軽佻な群衆とのために、屍体が不当に、さらし物にされている事を思うと、前より一層の悲憤ひふんを感じた。笑っている群衆も、群衆である。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
聞きおわった蔦之助つたのすけは、こおどりせんばかりによろこんだ。武田滅亡たけだめつぼう末路まつろをながめて、悲憤ひふんにたえなかったかれは、伊那丸の行方ゆくえを、今日こんにちまでどれほどたずねにたずねていたか知れないのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旦那だんな役所やくしよかよくつさきかゞやいてるけれども、細君さいくん他所行よそいき穿物はきものは、むさくるしいほど泥塗どろまみれであるが、おもふに玄關番げんくわんばん學僕がくぼくが、悲憤ひふん慷慨かうがいで、をんなあしにつけるものを打棄うつちやつてくのであらう。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
快速戦車部隊への刮目かつもく、敵の空襲や迫撃砲や機関銃に対する悲憤ひふん、それからまた軍需品製造への緊張
と母も悲憤ひふんの涙にくれていった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そして電気殺人たることは判っているのにもかかわらず、それを瞞著まんちゃくしようとてか短刀を乳房の下に刺しとおしてあるではないか。係官は犯人の嘲弄ちょうろう悲憤ひふんなみだをのんだ。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
湯河原中佐と、塩原参謀は、偵察機上から、思わず悲憤ひふんなみだを流したことだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)