御用達ごようたし)” の例文
「実はな、わしと、広海屋、心を合せて、江戸中の大商人と張り合い、お城の御用達ごようたしをうけたまわろうともくろんでいるのでな——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
着付けは陸軍の御用達ごようたし見たようだけれども俳人だからなるべく悠々ゆうゆうとして腹の中では句案に余念のないていであるかなくっちゃいけない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいは岩村の御用達ごようたしからも借り入れたもので、その中には馬籠の桝田屋ますだやの主人や上の伏見屋の金兵衛が立て替えたものもある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
珠太郎は二十歳の青年で、尾張家御用達ごようたしの大町人、清洲越十人衆の一人として、富と門閥とを誇っている、丸田屋儀右衛門の長男であった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
スマイル、スミスと申しまする人は、彼国あちらで蒸汽の船長でございます。これを上州じょうしゅう前橋まえばし竪町たつまち御用達ごようたし清水助右衞門しみずすけえもんと直してお話を致します。
まだお前さんから、いろんな農産物を買うつもりだったけれど、仕方がない、私は政府おかみ御用達ごようたしも務めていますからね……。
所が親戚のものははゞかりがあつて葬式をいたすことが出來ませんでした。其時眞志屋の先祖が御用達ごようたしをいたしてゐますので、内々お許をいたゞいて死骸しがいを引き取りました。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
父は米次郎といった人で、維新前までは、霊岸島に店を構えて、諸大名がたのお金御用達ごようたしを勤めていた。市人いちびとでも、苗字みょうじ帯刀を許されていたほどの家がらだったそうである。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
船橋は有名な古肆こしで、御菓子司おかしづかさの称号を暖簾のれんに染め出していた御用達ごようたしである。屋号を朱漆しゅうるしで書いた墨塗の菓子箱が奥深く積み重ねてあって、派手な飾りつけは見せていない。
かく分外ぶんがい奢侈しゃし札差ふださしまたは御用達ごようたし商人の輩に多しといえり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ときどきには同役や御用達ごようたし町人なども連れて来る。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
清「此の観音さまは見た事があるが、たし持主もちぬしは上州前橋の清水という御用達ごようたしで、助右衞門様のであったが、何うしてこれがお前の手にはいったえ」
中には江戸に時めくお役人に取り入り、そのお声がかりから尾州侯の御用達ごようたしを勤めるほどのものも出て来た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
御用達ごようたし、——肩で風を切る、勢いで、倉には黄金は、山程積んであろうところから、気随気儘きずいきままに大金を掴み出し、今日の生計たつきにも困るような、貧しい者や、病人に、何ともいわず、バラ撒いて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
の子の云うには、私もねえ元は立派な御用達ごようたしの娘でございますから、淫売じごくをしたと云われては世間へきまりが悪いから、惚合ほれあって逢ったようにして
お前さんも峯壽院ほうじゅいん様の御用達ごようたしでは無いか………お前さんは立派な天下の御家人では無いか、おとっさんが亡くなると蔵宿くらやどかりつくし、拝領物まで残らず売ってしまって
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ハテ恵比寿麦酒ゑびすびーる会社長くわいしやちやうで、日本にほん御用達ごようたしおこりは、蛭子ひるこかみが始めて神武天皇じんむてんのうへ戦争の時弓矢ゆみやさけ兵糧ひやうろう差上さしあげたのが、御用ごようつとめたのが恵比須えびすかみであるからさ。
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
計らず大身代おおしんだいの龜甲屋を相続いたす事になりまして、公儀から指物御用達ごようたしを仰付けられましたので、長二郎は名前を幼名の半之助と改め、非業に死んだ実父半右衞門と
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
へえー……にかえ、貴方あなた神幸かみかうといふ立派りつぱ御用達ごようたしたいしたお生計くらしをなすつたおかたか……えーまアどうもおもけないことだねえ、貴方あなた家宅ところの三でふ大目だいめの、お数寄屋すきや出来できた時に
何を証拠に其様そんなことをいうのだ、ハヽア分った、手前てめえは己が贔屓にするに附込んで、言いがゝりをいうのだな、お邸方やしきがた御用達ごようたしをする龜甲屋幸兵衞だ、失礼なことをいうと召連訴めしつれうったえをするぞ
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)