彼自身かれじしん)” の例文
目をとじて、彼は心の隅々までを、そうざらいしていた。すると、忽然こつぜん彼自身かれじしんにすら驚かれるような本心が、大きく彼の意識にのぼった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれはちょうど、そうぞうしいはちのようだった。しかしたれもそれに気づかなかった。彼自身かれじしんづかなかった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
かれ周圍しうゐさびしいともなんともおもはなかつた。しか彼自身かれじしんるから枯燥こさうしてあはれげであつた。かれすこしきや/\といたこしのばして荷物にもつ脊負せおつてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ほんとうに、あのおとこが、きゅうのうなどとだれもおもうまいよ。彼自身かれじしんだっておもわなかったにちがいない。これをみても、こうして、無事ぶじに、一にちおくられるということは、幸福こうふくなことだよ。
死と話した人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼自身かれじしんも、んな意味の結婚を敢てし得る程度の人間にんげんだとみづか見積みつもつてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かれは、彼自身かれじしん足跡あしあとをふりかへつてしづかに嘆息たんそくするやうにつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
それでも醫者いしやへの謝儀しやぎ彼自身かれじしん懷中ふところはげつそりとつてしまつた。さうして小作米こさくまいつたくるしいふところからそれでもかれ自分じぶんないあひだ手當てあてに五十せんたくしてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しなないと殊更ことさらにいふのはそれは一つには彼自身かれじしん斷念あきらめためでもあつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)