引添ひきそ)” の例文
書生が往きかけるので、主翁もすぐあと引添ひきそうて往った。池のそばや林の中に書生の姿が見えた。主翁はただ書生に遅れまいと思っていて往った。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
やまくづして、それに引添ひきそふやうにてられたこのいへの二かいからは、丁度ちやうどせまらぬ程度ていどにその斜面しやめんそらの一とが、仰臥ぎやうぐわしてゐるわたしはいつてる。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
しっ!」とばかり、此の時覚悟して立たうとした桂木のかたわら引添ひきそうたのは、再び目に見えた破家あばらやおうなであつた、はたせるかな、糸は其の手に無かつたのである。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
山影やまかげながらさつ野分のわきして、芙蓉ふようむせなみ繁吹しぶきに、ちひさりんにじつ——あら、綺麗きれいだこと——それどころかい、馬鹿ばかへ——をとこむねたらひ引添ひきそひておよぐにこそ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
引添ひきそつて、手拭てぬぐひ吉原よしはらかぶりで、えん蹴出けだしの褄端折つまぱしよりをした、前髮まへがみのかゝり、びんのおくれ明眸皓齒めいぼうかうし婦人ふじんがある。しつかりした、さかり女中ぢよちうらしいのが、もう一人ひとりあとについてゐる。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
桂木はこぶしを握つて石になつた、おうなの袖は柔かにかれおおうて引添ひきそひ居る。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)