引幕ひきまく)” の例文
横手の桟敷裏さじきうらからななめ引幕ひきまくの一方にさし込む夕陽ゆうひの光が、その進み入る道筋だけ、空中にただよう塵と煙草の煙をばありありと眼に見せる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なにかの参考のために、その当時、かの外国人らが引幕ひきまくに添えて守田勘弥に送った書面を左にかかげる。原文はもちろん英文で、それに日本語の訳文を添えたものである。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ある日こと小介こものをして大きなる新調の引幕ひきまくを持ち来らしめ、こは自分が自由民権の大義を講演する時に限りて用うべき幕なれば、何とぞわが敬慕する尊姉そんしの名を記入されたく
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
二絃琴をひろめようとする気持ちと、おしょさんの派手ずきとから、引幕ひきまくを贈ることもあった。藤の花の下にの敷もの、二絃琴を描いてあとは地紙じがみぢらしにして名とりの名を書いたりした。
横手よこて桟敷裏さじきうらからなゝめ引幕ひきまく一方いつぱうにさし込む夕陽ゆふひの光が、の進み入る道筋みちすぢだけ、空中にたゞよちり煙草たばこけむりをばあり/\と眼に見せる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
記念のためにどうか引幕ひきまくを頂戴することは出来まいかと言った。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
長吉ちやうきちはこの夕陽ゆふひの光をばなんふ事なく悲しく感じながら、折々をり/\吹込ふきこむ外のかぜが大きな波をうたせる引幕ひきまくの上をながめた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
引幕ひきまくには市川いちかは○○ぢやうへ、浅草公園芸妓連中げいぎれんぢゆうとして幾人いくたりとなく書連かきつらねた芸者の名が読まれた。しばらくして
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
拍子木ひょうしぎおと幕明まくあきうたとに伴ひて引幕ひきまくの波打ちつつあき行く瞬間の感覚、独吟の唄一トくさりきて役者の花道はなみちいづる時、あるひはおもむろに囃子はやし鳴物なりものに送られて動行うごきゆ廻舞台まわりぶたいを見送る時
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
電車のせ行く麹町こうじまちの大通りには、松竹まつたけ注目飾しめかざり、鬼灯提灯ほおずきちょうちん引幕ひきまく高張たかはりのぼりや旗のさまざまが、よごれたかわら屋根と、新築した家の生々なまなましい木の板とに対照して、少しの調和もない混乱をば
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浮雲の引幕ひきまくから屈折して落ちて来る薄明うすあかるい光線は黄昏たそがれの如くやわらかいので、まばゆく照り輝く日の光では見る事あじわう事の出来ない物の陰影かげと物の色彩いろまでが、かえって鮮明に見透みとおされるように思われます。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)