弓弦ゆづる)” の例文
弓弦ゆづるを離れた門弟どもや、腕のうずきぬいている剣客の誰彼は、我こそと大刀をぬくが早いか、前後からおめきかかって浪人を取り巻いた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弓弦ゆづるは其の張らるゝに於てを飛ばすのである。弛めば則ち箭の飛ぶや力無く、愈〻弛めば則ち弓箭の功倶に廢するのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そうして、彼らの弓弦ゆづるは張られたままにまだ一矢の音をも立ててはいなかった。しかし、王子長羅の肉体は弱っていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
又桜の枝にくつついて居た毛虫を彼の麦稈むぎわら帽子の上に落しただけで、蔓自身は弓弦ゆづるのやうに張りきつたのであつた。
雁射ると、弓弦ゆづる張りゐつ。足に踏む、をかしかりけり。手にし張る、あはれなりけり。米つきは下べ見てゐつ。雁射るは空べ見てゐつ。とざまかうざま。
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
弓弦ゆづるを切って放したように言葉を消して葉子はうつむいてしまった。日はいつのまにかとっぷりと暮れていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
慌てて二の矢を射出そうとすると、どうしたのか弓弦ゆづるがふつりと切れた。狐はむろん逃げてしまった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
手紙には考ふべき人物九人と苾堂の親戚しんせき知人四五人との名が出てゐる。前者中儒者には山本北山がある。詩人には大窪おほくぼ天民、菊池五山、石野雲嶺うんれいがある。歌人には岸本弓弦ゆづるがある。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
戦いの刻限を告げしっかり食事して働いてくれと頼んで去った、七人木で庵を造りやじりなどいで弓弦ゆづるくくって火いて夜を明かし、朝に物よく食べての時になりて敵来るべしといった方を見れば
ヒュン、と澄んだ弓弦ゆづるの音がし、弓から離れた矢は、矢羽根をキラキラ光らせながら、糸を引いたように真っ直ぐにあずちのほうへ飛んでゆく。的の真ん中に矢が突き立って、ブルンと矢筈を震わせる。
弓弦ゆづるを一筋……」とむせぶように云った。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
弓弦ゆづるたれし空よ見よ。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
弓弦ゆづるならす愛奴あいぬも見ぬに
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
獵箭さつや弓弦ゆづるつがごと
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そして弓弦ゆづるが鳴る。
おばな沢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
旗は、錦の旗の一りゅうをかざし、ほかは弓まで袋にしていた。弓弦ゆづるなども張ッたままでおくとピンと凍ッてまま切れてしまう。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雁射ると、弓弦ゆづる張りゐつ。足に踏む、をかしかりけり。手にし張る、あはれなりけり。米つきは下べ見てゐつ、雁射るは空べ見てゐつ、とざまかうざま。
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
猪のあぶら松脂まつやにとを煮溜めた薬煉くすね弓弦ゆづるを強めるために新らしく武器庫ぶきぐらの前で製せられた。兵士つわものたちは、この常とは変って悠々閑々ゆうゆうかんかんとした戦いの準備を心竊こころひそかわらっていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
この機会を取り逃してはならぬと、頼長の指図で二人はすぐ牛車のうしろから射かけたが、二人ながら不思議に仕損じた。あわてて二の矢をつがえようとすると、弓弦ゆづるは切れた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
庭の奥の矢場のほうで、鋭い弓弦ゆづるの音が聞える。
弓弦ゆづるを一筋……」と消えるような声で
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『私などの若い頃は、朝といえば、的場で弓弦ゆづるの音、夜になれば読書の声、実にしんとしたものでござりましたが』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「爾は奴国の弓弦ゆづるの弱むを欲するか。」と、長羅はいって詰め寄った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
雁射ると弓弦ゆづるひき放ちる弓の小手にくるりとかへりたるらし
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と見たので、弓弦ゆづるにつがえている矢をしぼって、ひょうと射て放すと、矢は裲襠の袂に止まって、風鳥のように、その影は、築山つきやまへ駈けのぼって行く。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雁射ると弓弦ゆづるひき放ちる弓の小手にくるりとかへりたるらし
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかし、陸上の騎馬歩兵が、弓弦ゆづるを並べて待ちかまえると、海上の船列はあざけるように敵をらして、その舳艫じくろを東へ東へ、移動して行ってしまう——
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今宵こそ、山法師ばらに、一泡ふかせてくれねば——」と、弓弦ゆづるを試し、太刀のかわを巻いて、夜を待っていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城戸にった真っ黒な人影の中でガチャガチャと矢つがえの音が起った。いや、その弓弦ゆづるを充分に引くひまなどはもとよりない。眼近まぢかな相手の群れではある。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、弓弦ゆづるを調べたり、足拵えを確かめて来た程だった。それ程、千葉一族が味方に加わるという事も、ここへ来てみるまでは、まだ半信半疑だったのである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蔦之助は、たかの石打ちの矢を一本とって、弓弦ゆづるにつがえ、馬上、横がまえにキラキラと引きしぼる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江漢が早起きなので、未明に眼をさます頃というと、塀を隔てたその湯泉屋敷で弓弦ゆづるが聞こえる。
小説のタネ (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、いつもの狩場近くの山野へ出ても、鷹を放つ容子ようすもなく、弓弦ゆづるを掛けるふうもない。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると袁尚はしり眼に振向いて、矢ごろをはかり、ちょう弓弦ゆづるを切って、一矢を放った。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「見事まず、こちらの弓弦ゆづるを引っぱずされたような心地」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)