廂合ひあわい)” の例文
と両袖を突張つっぱって肩でおどけた。これが、さかり場の魔所のような、廂合ひあわいから暗夜やみのぞいて、植込の影のさす姿見の前なんですが。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤大名のずたずたあわせが、廂合ひあわいを先へ出ると、あとから前のめりに泳ぎ出した、白の仕事着の胸倉をつかんだまま、小路のうち
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ざらざらと落葉をむ音。此方こなたの一間と壁を隔てた、隣の平家との廂合ひあわいへ入って、しばらく跫音あしおとが聞えなくなった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
表飾りの景気からせば、場内の広さも、一軒隣のアラビヤ式と銘打った競馬ぐらいはあろうと思うのに、筵囲むしろがこいの廂合ひあわいの路地へ入ったように狭くるしく薄暗い。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
構外かまえそとを廻って見ると、今までとは方面の違った町の側、酒屋の蔵の廂合ひあわい一条ひとすじほの暗い露地が開かれた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
斜めにそこの柱にもたれて、雲を見るか、と廂合ひあわい恍惚うっとりと仰いだ瞳を、蜘蛛に驚いて柳に流して、葉越しに瞰下みおろし、そこに舞扇を袖に受けて、見上げた清葉とおもてを合せた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
廂合ひあわいつらなるばかり、近間ちかまに一ツもあかりが見えぬ、陽気な座敷に、その窓ばかりが、はじめから妙に陰気で、電燈でんきの光も、いくらかずつそこへ吸取られそうな気勢けはいがしていた。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くだんの一陣の兇風、砂を捲いて飛んで返ったッきり、門口はもとより台所へも、廂合ひあわいの路地へも寄ッついた様子はなし、お夏さんも二日たって、その日のひる過ぎ湯に行くまで
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山気さんきの凝って鼠色のもやのかかりました一軒家、廂合ひあわいから白昼、時ならぬ月が出たのに仰天した、と、まず御推量が願いたい——いくらか、その心持が……お分りになりましょうかな。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まことは——吹矢ふきやも、ばけものと名のついたので、幽霊の廂合ひあわいの幕からさかさまにぶら下り、見越入道みこしにゅうどうあつらへた穴からヌツと出る。雪女はこしらへの黒塀くろべいうっすり立ち、産女鳥うぶめどり石地蔵いしじぞうと並んで悄乎しょんぼりたたずむ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
崖にはむらむらともやが立って、廂合ひあわいから星が、……いや、目の光り、敷居の上へ頬杖ほおづえいて、ひきがえるのぞいていそうで。婦人おんながまた蒼黄色あおぎいろになりはしないか、とそっと横目で見ましたがね。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
秋晴あきばれ或日あるひ、裏庭の茅葺かやぶき小屋の風呂のひさしへ、向うへ桜山さくらやまを見せて掛けて置くと、ひる少し前の、いい天気で、しずかな折から、雀が一羽、……ちょうど目白鳥の上の廂合ひあわい樋竹といだけの中へすぽりと入って
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まことは——吹矢も、化ものと名のついたので、幽霊の廂合ひあわいの幕からさかさまにぶら下がり、見越入道みこしにゅうどうあつらえた穴からヌッと出る。雪女はこしらえの黒塀にうっすり立ち、産女鳥うぶめどりは石地蔵と並んでしょんぼりたたずむ。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
芸妓家げいしゃや二軒の廂合ひあわいで、透かすと、奥に薄墨で描いたような、竹垣が見えて、涼しい若葉の梅が一木ひとき、月はなけれど、風情を知らせ顔にすっきりとたたずむと、向い合った板塀越に、青柳の忍び姿が
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
廂合ひあわいの星の影に立つて居た。
夜釣 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「縁の下か、廂合ひあわいかな。」
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)