ながら)” の例文
お桐は其後快くなつたり悪くなつたりして今日まで生きながらへて来た。梅雨、土用と不順な気候が続いたのでお桐は最早望みなくなつた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
それがために死にもならず、生きながらえてきましたが、しかし今になって考えるとあの時に自殺していた方がどんなによかったか知れません。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
五体からだのんびりして、始めてアヽ世界は広いものだと、心の底から思ひましたの、——私、老女さん、二十年前に別れた母が未だながらへて居て
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
すなわち汝憂愁うれえを忘れん……汝の生きながらうる日は真昼よりも輝かん……汝は何にも恐れさせらるる事なくして伏し休まん……
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
夜が明けかけても、二人の男女は少しも悪い容体にならずに、現世このよながらえている。Aは到頭我慢が出来なくなって、もう一度薬を飲むことにした。
其の熊に囓み殺されることかと思いのほかかえって熊のために助けられまして、今まで命をながらえて居りました、不憫ふびんと思召してうぞお助け下さいまし
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ただ足指に少し神経痛の気味があって、聖書を読んでる最中に、夜をのろうことがあるばかりだった。その調子でゆくと、百年くらいは生きながらえられそうに思われた。
洗濯婆せんだくばあさんだつて六十迄もながらへてゐるうちには大英百科全書にもないやうな智識もたに相違ない。
カピ妻 では、其方そなたは、ころしたたう惡黨あくたうまだながらへてゐくさるのを、然程さほどにはおきゃらぬな?
彼方あなたも在るにあられぬ三年みとせの月日を、きは死ななんと味気あぢきなく過せしに、一昨年をととしの秋物思ふ積りやありけん、心自から弱りて、ながらへかねし身の苦悩くるしみを、御神みかみめぐみに助けられて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ただ、いつまでも、ながらえている限りは、只今のお気持を、お忘れなさらずに下さりませ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いずれをみ破るもかたければ、今はただいつまでもかく寡居かきょしていつまでも佐太郎に訪わるるこそせめて世にながらうる甲斐かいならめ、しかれどもすでに黄金に余れる彼、いつまで妻なくてあるべき
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
さりながら、何程思続け候とても、水をもとめていよいほのほかれ候にひとし苦艱くげんの募り候のみにて、いつ此責このせめのがるるともなくながらさふらふは、孱弱かよわき女の身にはあまりに余に難忍しのびがたき事に御座候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
須磨子は屹度生きながらへて自身の生活と芸術の完成に努めるだらうと思つてゐた。
彼は生きながらえなければならないのだ……その他種々。
対山は岡田半江の高弟で、南宗画家として明治の初年までながらえていた人だった。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)