婆々ばば)” の例文
堂宮どうみや縁下えんのした共臥ともぶせりをします、婆々ばば媽々かかならいつでも打ちも蹴りもしてくれましょうが、それでは、念が届きませぬ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
更にその際の唱えごととして「隣の婆々ばばをひった」という類の下品な言葉があり、またふふらのふんというような鼻の音の声色をはやしにしている。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
浜子さんを一番だまかそうという気があったでは決してない。あの婆々ばばアの方だっても。向うの閨淋ねやさびしいところから何とか言われたので。前方から世話になっていて。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
Dostojewskiドストエウスキイ は「罪と償」で、社会に何の役にも立たない慾ばり婆々ばばあに金を持たせて置くには及ばないと云って殺す主人公を書いたから、所有権を尊重していない。これも危険である。
沈黙の塔 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「おひとりではお寂しかろ、婆々ばばアでもお相手致しましょう」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
婆々ばばさ夜食のなべかけろ
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
されど今なまじいに鷲の首などとう時は、かの恐しき魔法使の整え来ぬともはかり難く因りて婆々ばばが思案には
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一つのふしがこれだけ広くひろまったことはもちろんであるが、なお一方にはまた、ここに出てくる「しょんがい婆々ばばさん」というような、やや滑稽こっけいなことをいう老女なども
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
深切な婆々ばばは、ひざのあたりに手を組んで、客の前にかがめていた腰をして、ゆびさされた章魚たこを見上げ
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おお、此方衆こなたしゅはその註文のぬしじゃろ。そうかの。はて、道理こそ、婆々ばばどもが附きまとうぞ。」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今時の品のい学生風、しかも口数を利かぬ青年なり、とても話対手はなしあいてにはなるまい、またしないであろうと、断念あきらめていた婆々ばばが、たまり兼ねてまず物優しく言葉をかけた。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こうやって愛想気あいそっけもない婆々ばばとこでも、お休み下さりますお人たちに、お茶のお給仕をしておりますれば、何やかやにぎやかで、世間話で、ついうかうかと日を暮しますでござります。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かえってその不祥のきざしに神経を悩まして、もの狂わしく、井戸端で火難消滅の水垢離みずごりを取って、裸体はだかのまま表通まで駆け出すこともあった、天理教信心の婆々ばばの内の麁匆火そそうびであった事と。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地柄じがら縞柄しまがらは分らぬが、いずれも手織らしい単放ひとえすそみじかに、草履穿ばきで、日に背いたのはゆるやかに腰に手を組み、日に向ったのは額に手笠で、対向さしむかって二人——年紀としも同じ程な六十左右むそじそこら婆々ばば
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時々、あの辺で今まで見た事の無い婆様ばあさんに逢うものがございますが、何でも安達あだちが原の一ツ婆々ばばという、それはそれは凄い人体にんていだそうで、これは多分山猫の妖精ばけものだろうという風説うわさでな。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同じ人間もな……鑄掛屋を一人土間であおらして、納戸の炬燵こたつに潜込んだ、一ぜん飯の婆々ばば媽々かかなどと言うてあいは、お道さんの(今晩は。)にただ、(ふわ、)と言ったきりだ。顔も出さねえ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝晩汐時しおどきを見ては拾っておきまして、お客様には、お土産かたがた、毎度婆々ばば御愛嬌ごあいきょうに進ぜるものでござりますから、つい人様が御存じで、葉山あたりから遊びにござります、書生さんなぞは
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実は、婆々ばばどのの言うことに——やや親仁おやじどのや、ぬしは信濃国東筑摩郡松本中での長尻ながちりぞい……というて奥方、農産会に出た糸瓜へちまではござらぬぞ。三杯飲めば一時いっときじゃ。今の時間ときで二時間かかる。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いよ。お婆々ばば、聞えます聞えます、」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婆々ばばを挙げて白髪の額に頂き
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「分ったか、お婆々ばば。」と言った。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)