天鵞絨ビロウド)” の例文
間もなく小間使は黒天鵞絨ビロウド張の小筐こばこを持って帰って来た。人々は世界的に有名な頸飾を見たいというので、子爵のそばへ寄っていった。
謎の頸飾事件 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
天鵞絨ビロウドの袋をかぶせてできた、男社員は黒、婦人社員は赤、の尻尾は配られた、これを男社員は洋服のズボンにつける、丁度肉体では
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
フランスへ青年時代に洋行して来たという古びた天鵞絨ビロウドの服を着て来る古い洋画家のF氏——そうした人達が平一郎に教えた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
空色の香紫欄花ジロツフレ瑠璃草ミオティスで作った鳥籠の中でさえずるのは駒鳥にあらで、水仙黄ナルシス・ジョオヌの散歩服に黒天鵞絨ビロウドの帯をしたる美貌の閨秀けいしゅう詩人オウジエ嬢。
彼方此方かなたこなたに浮んだ蓮田はすだの蓮の花は青田の天鵞絨ビロウドに紅白の刺繍ぬいとりをなし打戦うちそよぐ稲葉の風につれてもいわれぬ香気を送って来る。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして、前にゐた幾人の女中の汗やら髪のあぶらやらが浸みてるけれども、お定には初めての、黒い天鵞絨ビロウドの襟がかけてあつた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
白髪しろが頭にふちの垂れた黒い帽をて紅い毛糸のぶくぶくした襯衣しやつに汚れた青黒い天鵞絨ビロウド洋袴パンタロン穿き、大きな木靴をひきずつて
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「絹物を着て居る奴はないか、天鵞絨ビロウドの鼻緒、唐皮からかわ煙草たばこ入——そんな御禁制のものは無いか」
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
草色天鵞絨ビロウドのクッションの中に身を落ち込ませて、智子はホッとした。すると、何だか曾てない明るい嬉しさと一緒に、おかしさが込み上げて来て、ひとりでクックッ笑えてならなかった。
或る母の話 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
『わたしは、やっぱり、縫いとりのついた、赤い天鵞絨ビロウドの服にするわ。』
シンデレラ (新字新仮名) / 水谷まさる(著)
其後そののち光輪ごこううるわしく白雲にのっ所々しょしょに見ゆる者あり。ある紳士の拝まれたるは天鵞絨ビロウドの洋服すそ長く着玉いて駄鳥だちょうの羽宝冠にあざやかなりしに、なにがし貴族の見られしは白えりめして錦の御帯おんおび金色こんじき赫奕かくえくたりしとかや。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
やはらかく深紫の天鵞絨ビロウドをなづる心地か春の暮れゆく
芥川竜之介歌集 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
見よ、床の上には小間使が仰反あおむけに倒れて気絶している。そしてその傍には、既に空になった黒天鵞絨ビロウド張の小筐が落ちていたではないか。
謎の頸飾事件 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その辺からずっと向うまでなんにも植えてない広い庭の土には一面の青苔が夏よりも光沢つやよく天鵞絨ビロウドの敷物を敷いている。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
うな頬片ほつぺた、何時来ても天鵞絨ビロウドみてえだな。十四五の娘子めらしごと寝る様だ。』と言つた。これは此若者が、殆んど来る毎にお定に言つてゆく讃辞ことばなので。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
部屋を世話する英国婦人の給仕が自分の帽を天鵞絨ビロウドを張つたぐ上の壁へ針で留めて掛けてれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
自分で結ったかうか、群衆の前で試される女、——天鵞絨ビロウドの鼻緒を切取きりとられて、竹の皮ですげ替えさせられた上、親を呼出よびだして手錠をはめられる小娘、——中には贅沢ぜいたくな紙入を発見されて
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
小供の衣服きものを縫ふ——といふ事が、はしなくも智恵子をして亡き母を思出させた。智恵子は箪笥の上から、葡萄色えびいろ天鵞絨ビロウドの表紙の、厚い写真帖を取下して、机の上に展いた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
天鵞絨ビロウドを張つた真黒まつくろ屋形やがたの中に腰を掛けた気持は上海シヤンハイで夜中に乗つた支那の端艇はしけを思ひ出させた。狭い運河の左右は高い家家いへいへしきられ、前はやみと夜霧とで二けんと先が見えない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)