囹圄れいご)” の例文
狭い楽しい囹圄れいごから広い寂しい世間への解放され、感傷の重荷を一身に背負うと同時に、自身の生活に立ちかえることもできた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その士、その家の主人が、破廉恥罪の名によつて、今後三年を囹圄れいごの裡に送るが、それが短い日月でしやうか、父に取つての軽罪でしやうか。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
黎元れいぐわん撫育むいくすることやや年歳としを経たり。風化ふうくわなほようして、囹圄れいごいまむなしからず。通旦よもすがらしんを忘れて憂労いうらうここり。頃者このごろてんしきりあらはし、地しばしば震動す。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼が一たび口走れば、どんな犯罪者も囹圄れいごの人とならねばならなかったのであるから、全く無理もない話である。
変な恋 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
一つ 親王の御罰ぎょばつは、ひとえに宮のおごりをこらす聖衷せいちゅうに存するを、私怨しえんをふくんで、これを囹圄れいごゆうす。罪の七。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さしもに豪華をうたわれた岩下氏もある事件に蹉跌さてつして囹圄れいごにつながれる運命となった。名物お鯉も世のきをしみじみとさとらなければならなくなった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
われは囹圄れいごの苦を嘗め、懷裡に死を藏して又自由の身となり、波立てる海を隔てゝソルレントオより拿破里ナポリを望み、またサンオノフリイ寺の檞樹かしのきの下に坐し
以前彼は自分を囹圄れいごの人としたおのれの醜悪愚劣をきわめた行為に憤懣を感じたものであるが、しかし今は、もう牢獄の中にありながら自由になってしまった彼は
しかして今や我らは、隘屋あいおくのうちに禁錮せられ、飲食、休息、睡眠すべて困難なり。我らは、この囹圄れいごより脱する能わず。泣かんか、愚人のごとし。笑わんか、悪漢のごとし。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かすかな行燈あんどんの火に照らされた、右内の姿はやつれていて囹圄れいごの人、らしいところはあったが、眼には活気と精気とがあり、気力の衰えていないことを、それによってあらわしていた。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
マリア夫人は、少しも躊躇ちゅうちょすることなく、直ちに右の条件を承諾し、自ら進んで囹圄れいごの人となり、それより我夫とともに、甘んじて一生涯を鉄窓の下に呻吟しんぎんしようとしたのであった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
後年囹圄れいごの身となるに及び、私は獄窓の下で屡々しばしばこの昔日の清夢を想い起した。
御萩と七種粥 (新字新仮名) / 河上肇(著)
が、その糸のように細い眼だけは、——上品な縁無しの眼鏡の後に、何時も冷然と微笑した眼だけは、確に出来合いの代物しろものじゃない。この眼の為に袁世凱えんせいがいは、先生を囹圄れいごに苦しませたのである。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このたびも逸早く自首して刑の軽減をはかるのが至当であろうも、いまや自由にたいする烈々たる執着があり、一日といえども囹圄れいごの中で消日するに耐えられぬから、思い切って失踪することにした。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
熊楠諸国を遍歴して深く一じんせつをも破壊するてふ事の甚だ一国一個人の気質品性を損するを知り、昼夜奔走苦労してその筋へ進言し、議会でも弁じもらい、ついに囹圄れいごとらわるるに至って悔いず。
「しゃッ。その儀はならんといったのに、まだ駄々をこねておられるのか。一体誰が囹圄れいごのお耳へ入れたのだ」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
縱令たとひ忘られざらんも、その偶〻たま/\存ずるは汝が囹圄れいご桎梏しつこくとして存じ、汝が性命の杯中に落ちたる毒藥として存ずるならんといふ。われはタツソオの上をおもへり。矜持きようぢせるレオノオレよ。
しかも石にあらざる氏の素志は、決してころばすことは出来なかった。性急なる王は、忽ち怒を発して、氏を獄に投じたので、この絶世の法律家は、遂に貴重なる一命を囹圄れいごの中におとしてしまった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
もちろん、家の出入りには、番兵がつき、邸は「沙汰ある日まで」の囹圄れいごだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晩春の夜の生ぬるさは、いとど囹圄れいごの高氏をくるしませた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
囹圄れいごの父と、囹圄の子だ。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)