取乱とりみだ)” の例文
旧字:取亂
山の者のいうところをききますと、阿闍利さまは夜となく昼となく童子の死体のそばを離れず、取乱とりみだして嘆いておられました。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
弟子はぐ出て来て「夫人が取乱とりみだした風をして居て失礼ですけれど一寸ちよつとぜん挨拶をすると申されますから待ち下さい」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
だい一、病中びやうちうは、取乱とりみだした姿すがたせるのを可厭いやがつて、見舞みまひくのをことはられた自分じぶんではないか。——これわるい。こんなところを。あゝ、まない。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
十二月に御嶽おんたけの雪は消ゆる事もあれ此念このおもいきえじ、アヽいやなのは岩沼令嬢、恋しいは花漬売とはて取乱とりみだして男の述懐じゅっかい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこにはけだものの様な男がいた。なまめかしく取乱とりみだした夫人の姿があった。それを思うと彼は肉体的な痛みを感じた。幾度家の中へ飛びこもうとしたか知れなかった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と突きつけたのは、良い男の手代駒三郎と、これも良い女の妾のお房の、取乱とりみだした姿でした。
そのやり口に腹を立てて、彼女は取乱とりみだした。今夜は眠れそうにないというので、彼は勧めた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
らぬことゝて取乱とりみだせし姿すがたられしか、られしに相違さうゐなしと、かほにわかにあつくなりて、夢現ゆめうつゝうつむけば、ほそきよしきをとここゑに、これは其方そなたさまのにや返上へんじやうせんお受取うけとりなされよと
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
屋内おくないはべつに取乱とりみだされず、犯人はんにんなにかを物色ぶっしょくしたという形跡けいせきもないから、盗賊とうぞく所為しょいではないらしく、したがつて殺人さつじん動機どうきは、怨恨えんこん痴情ちじょうなどだろうという推定すいていがついたが、さて現場げんばでは
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
それが気違いの様に取乱とりみだして、断末魔の踊りを踊っているのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)