ふた)” の例文
旧字:
うれしいっ、と叫んだのも、その面も、ふたつの袖でつつんでしまった。そして、高氏の胸へ、仆れかかるように寄って来た。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぢゃによって、こひかみ御輦みくるま翼輕はねがるはとき、かぜのやうにはやいキューピッドにもふたつのはねがある。あれ、もう太陽たいやうは、今日けふ旅路たびぢたうげまでもとゞいてゐる。
ふたかたのどちらの御機嫌にも逆らわずに済まされるような道はとうてい見つかりません。
恐怖のために顔はひきゆがみ、ふたつの眼はとび出すかと疑えるほど大きくみひらかれていた、その眼で靱負をひたとみつめながら、おかやは「ああ、ああ」と意味をなさぬ声をあげ、激しく身悶みもだえをした。
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
山の餌をって、山の獣達と一緒に何んの苦労もなく生い立ったのですが、髪の毛が房々ふさふさと延び、ふたつの乳房が、こんもり盛上もりあがって、四肢に美しい皮下脂肪が乗り始める頃から、身を切られるような
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
紙のごとひらひらとこそありにけれ蝶のふたつぞ照りへりける
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
対照的なふたつの高峰を築くものだと考えます。
ふた親うめる兄弟の中に最も我でき
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
御堂へ向って前栽せんざいの両側に、これから、城主と親鸞とが手ずからくわを持って、ふたつの樹を植える式があるというので——。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紙のごとひらひらとこそありにけれ蝶のふたつぞ照りへりける
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と、見れば、それは七日なのかも前に降った春の雪が、思いがけなく、ふたつのてのひらに乗るほど、日蔭に残っているのだった。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『貝賀。こうして歩いてみると、人間の心というものは、実におもしろいな。……裏と表、ふたつ鏡で見るようだ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この熱烈な雰囲気からはすぐ看破されてしまって、ふたつの派の何っ方からも、当然に無視されてしまっている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
云いかけて、声はおろおろふたつのたもとにつつまれてしまった。しのび泣きして、背を向けているのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
強右衛門は、身をもたげて、桑の葉のうえに半身をぬっと見せた。星空をくように、ふたつの手を挙げて
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、武蔵の眼、権之助の眼、そうふたつのものは、もうそれくらいな制止では、針程も動かなかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この暗所にみなれている世阿弥の眸は、自然生理的に、闇の中でも見とおしがく筈だが、お十夜には、皆目、対手あいての見当がつかない。ただ、らんと射るふたつの眼を感じるばかりだ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
突然、花世はふたつの袖を手にすくって、わっと、そこへ泣き伏してしまった。郁次郎の蒼ざめた唇は、口いっぱいに血を含んでいるかのように、固く閉じ切ッたまま、けいれんしていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とたんに、ふたつの眼を、くわッと開いて、舟のなかの三名を睨みつけたので
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふたつの袂を手に持って、粂はほろほろと白い頬に涙のすじを描いていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
跳び退きながら、天蓋の人影は、彼に向って、白いふたつの手を合せた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自然にふたつのが合わさったのであった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)