匍匐はらば)” の例文
勅使をさえかしこがりて匍匐はらばいおろがむ彼をして、一たび二重橋下に鳳輦ほうれんを拝するを得せしめざりしは返すがえすも遺憾いかんのことなり。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
かくて彼新しき背を之にむけ、侶に曰ひけるは、願はくはブオソのわがなせしごとく匍匐はらばひてこの路を走らんことを 一三九—一四一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
我等は車主の後につきて、彼塔の一つに上りゆき戸を排して一堂に入りて見るに、卓上に紙を伸べ、四五人の匍匐はらばふ如くにその上に俯したるあり。
それからまた日目かめほとけおくつて村落むらもの黄昏たそがれ墓地ぼちうた。へび猶且やつぱり棺臺くわんだいかげらなかつた。へび自由じいう匍匐はらばふにはあまりに瘡痍きずおほきかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ここにやまとにます后たち、また御子たちもろもろ下りきまして、御陵を作りき。すなはち其地そこのなづき田匍匐はらば𢌞もとほりて、みねなかしつつ歌よみしたまひしく
天の逆鉾さかほこ、八大観音などいうものあるあたりを経て、また梯子を上り、匍匐はらばうようにして狭き口より這い出ずれば、忽ち我眼我耳の初めてここに開けしか、この雲行くそら
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
匍匐はらばって進むのであるが、木や草が稀なので地物として利用するものが無い。
田原坂合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
木枕に押しつけていた耳が痛むので、かれは頭をあげて匍匐はらばいながら、枕もとの煙草入れを引きよせて先ず一服すおうとするときに、部屋の外の廊下で微かにかちりかちりという音がきこえた。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いたちのぞくような、鼠が匍匐はらばったような、切ってめたひしの実が、ト、べっかっこをして、ぺろりと黒い舌を吐くような、いや、念のった、雑多な隙間、れ穴が、寒さにきりきりと歯を噛んで
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
剃刀かみそり持てる白痴児はくちじ匍匐はらばひながら
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
汚い泥土の湿地を匍匐はらば
傾ける殿堂 (新字旧仮名) / 上里春生(著)
匍匐はらばふ蟲の賤が身に
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
かれここに伊耶那岐の命のりたまはく、「うつくしき汝妹なにもの命を、子の一木ひとつけへつるかも」とのりたまひて、御枕方みまくらべ匍匐はらば御足方みあとべに匍匐ひて、きたまふ時に、御涙に成りませる神は
いたちのぞくやうな、ねずみ匍匐はらばつたやうな、つてめたひしが、ト、べつかつこをして、ぺろりとくろしたくやうな、いや、ねんつた、雜多ざつた隙間すきまあなが、さむさにきり/\とんで
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
長き※衣けおりごろもを着て、噴水のトリイトンの神のめぐりに舞ふ農夫、一人の匍匐はらばひたるが上に一人のまたがりたる侏儒プルチネルラなど、いたく姫君の心にかなひて、始はこれに接吻し給ひしが、後には引き破りて棄て給ひぬ。