加持祈祷かじきとう)” の例文
「もっとも信心の衆は、加持祈祷かじきとうをして貰ったと言っちゃ金を持って行く。が、鉄心道人はどうしても受取らねえ。ばちの当った話で」
アプタ(胆振国虻田郡虻田町)の酋長の妻が突然病んで、どんなに加持祈祷かじきとうしてもげんがなく、病気は重くなるばかりだった。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
その年夏のさかりに毎夜まるうち芝原しばはらへいろいろ異様な風をした人が集って来て、加持祈祷かじきとうをするのを、市中の者がぞろぞろ見物に出かけた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たとえば療法りょうほうにも信仰しんこうだの加持祈祷かじきとうだのを混合する。もちろん病気によってはいわゆるやまいもあるから、心の持ちようでなおる病気もあろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
なんの前兆か、吉か凶かを、暦学、占筮せんぜいの諸博士から、意見を徴して、例のごとく、加持祈祷かじきとうに、奔命するのであった。
薬餌やくじまじない加持祈祷かじきとうと人の善いと言う程の事を為尽しつくして見たが、さてげんも見えず、次第々々に頼み少なに成て、ついに文三の事を言いじににはかなく成てしまう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その行者というのは、頭の禿げた目尻の垂れた口軽くちがるな、滑稽じみた男であったがたえず信者を集めて、加持祈祷かじきとうをしていたので、今周蔵のいる家がその神様を祭った場所である。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
或は奥へ請ぜられて加持祈祷かじきとうをし、日々僅かな布施ふせを得て糊口ここうしのいでいたらしかったが、どうかすると、こんな工合にたった一人で河原や橋のあたりへ来てうろついていたり
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
寺にはあやしい御符ごふという加持祈祷かじきとうをした砂があってよく信者がもらいにやって来た。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そうして、その幽霊を退散させるために何か加持祈祷かじきとうのすべはあるまいかと相談した。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
神のたたりであろうかと加持祈祷かじきとうに手を尽くしたが、それも一向効顕ききめがなく、怪異は相変わらず継続するので、主人の荘八はそれがために、いたく神経を悩まして病臥びょうがする仕儀となった。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
医者では不可いかん、加持祈祷かじきとうと、父親の方からを折ってお札、お水、護摩となると、元々そういう容体ですから、少しずつ治まって、痙攣けいれんも一日に二三度、それも大抵時刻がきまって
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あらゆる加持祈祷かじきとうを試み、わざわざ多賀の大社まで代参のものをやって病気全快を祈らせたことや、あるいは金毘羅大権現こんぴらだいごんげんへ祈願のために落合おちあいの大橋から神酒みきたるを流させたことまで
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
近所合壁がっぺきの騒ぎになり、人を雇ってまで捜した、むろんこの井戸へも見に来たろうが、どうしてもわからねえ、神隠しか人さらいか、占ってもらったり加持祈祷かじきとうもやった、それでも行方がわからねえ
加持祈祷かじきとうがうまいそうじゃな」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
国土のわずらいでも、一身のらんでも、なにか大事にたちいたると、すぐ、加持祈祷かじきとうへ頼むところは、わがちょうの藤原時代の権門とも、まったく同じ風習だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又宮中に於いて尊意が加持祈祷かじきとうしている時、帝は夢に不動明王ふどうみょうおうが火焔の中で声をはげまして呪文じゅもんを唱えていると見給い、おん眼がさめて御覧になると、それは尊意の読経どきょうの声であったと云う。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
どうぞまあそれだけでもかなえてやりたいと、みんなが心配をしますんですが、加持祈祷かじきとうと申しましても、どうして貴方ここいらはみんな狸の法印、章魚たこの入道ばっかりで、あてになるものはありゃしませぬ。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
加持祈祷かじきとうは、多く病気、災難ある場合にこれを行うことになっておる。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
きっとなおしてやるというので、加持祈祷かじきとうに、夫婦も共に、精を打ちこんで、病児の恢復を祈っていたところ、病気は日ましに悪くなって、とうとう死んでしまった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(四)怪しげなる加持祈祷かじきとうをなすものを信ぜぬこと。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
あれも、滑稽こっけいきわまる迷信だ。坊主に、鞭の加持祈祷かじきとうをしてもらって、それで勝てると思って競馬へのぞむ騎者たちの気がしれない。……そういうまいな者の眼をさましてやろうと思っていたが
(四)怪しげなる加持祈祷かじきとうをなすものを信ぜぬこと。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
と、云うのが大殿の棟に燃えつかんばかり聞えたが、二位殿の看護の真心や、加持祈祷かじきとうの衆僧が、諸声あわせて唱うる誦経ずきょうに、やがて夜明けと共に消え去った——とか紛々たる取沙汰なのである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)