割箸わりばし)” の例文
新聞のきれくず、辞書類の開らきっぱなしになっているのや、糊壺のりつぼ、インキのしみ、弁当をたべた跡、——割箸わりばしを折って捨てたのや
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
男の子はマッチの包みと割箸わりばしの袋とを左右の手でたくみに投上げながら唄に合せる腰の調子は相変らずやめずになおもこっちを見つづけている。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
食いものやの道具だったら、なんだって売ってないものはない。割箸わりばし専門の店、各種薬味容器専門の店、それから……ああ、もうやめよう。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
お粂が持って来て客と父との前に置いた膳の上には、季節がらの胡瓜きゅうりもみ、青紫蘇あおじそ、枝豆、それにきざみずるめなぞを酒のさかなに、猪口ちょく割箸わりばしもそろった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
割箸わりばしを添えて爺が手渡すどんぶりを受取って、一口ひとくちすすると、なまぐさいダシでむかッと来たが、それでも二杯食った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と古畳八畳敷、狸を想う真中まんなかへ、しょうの抜けた、べろべろの赤毛氈あかもうせん。四角でもなし、まるでもなし、真鍮しんちゅう獅噛しがみ火鉢は、古寺の書院めいて、何と、灰に刺したは杉の割箸わりばし
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じいさんは毎日時刻を計って楽屋の人たちの註文ちゅうもんをききに来た後、それからまた時刻を見はからって、丼と惣菜そうざいこうものを盛った小皿に割箸わりばしを添え、ついぞ洗った事も磨いた事もないらしい
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
川柳せんりゅう割箸わりばしという身花嫁湯にはいり、紅毛人のことだからそんなしゃれたことは知らないが、なにしろあっちでもこっちでも、裸体の花嫁がはいったきり浴槽が寝棺になってしまうのだから
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
謙作は魚軒さしみに添えた割箸わりばしを裂いて、ツマの山葵わさびを醤油の中へ入れた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのうち結城紬ゆうきつむぎ単物ひとえものに、縞絽しまろの羽織を着た、五十恰好の赤ら顔の男が、「どうです、皆さん、切角出してあるものですから」と云って、杯を手に取ると、方方から手が出て、杯を取る。割箸わりばしを取る。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
底の深い筆筒やうの筒に割箸わりばしが沢山に入れてあつて、その割箸の尖端せんたんの赤く染めてあるやつを引つこぬけば当り籤なのであつたが、私はあまりにはづれてばかりゐたので、抽籤のとき、筒の中の箸を
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
彼は割箸わりばしをわって、皿の上に置いた。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
第四十七 杉の割箸わりばし
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
とおくめまでが肩をすぼめて、それを母親のところへささやきに来る。この娘ももはや、皿小鉢さらこばちをふいたり、割箸わりばしをそろえたりして、家事の手伝いするほどに成人した。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大釜おおがまに湯気を濛々もうもうと、狭いちまたみなぎらせて、たくましいおのこ向顱巻むこうはちまきふみはだかり、青竹の割箸わりばしの逞しいやつを使って、押立おったちながら、二尺に余る大蟹おおがに真赤まっかゆだる処をほかほかと引上げ引上げ
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だしじるのいれもの、猪口、それに白木の割箸わりばしまで、見た目も山家のものらしい。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
間へ二ツ三ツずつ各自めいめいの怪談が挟まる中へ、木皿に割箸わりばしをざっくり揃えて、夜通しのその用意が、こうした連中に幕の内でもあるまい、と階下したで気を着けたか茶飯の結びに、はんぺんと菜のひたし。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)