もの)” の例文
ここにそのみめ須世理毘賣すせりびめは、はふりもの一〇を持ちて哭きつつ來まし、その父の大神は、すでにせぬと思ほして、その野に出でたたしき。
事情わけを知らない引船と禿かむろは、さっきここを出て行く前に、次の部屋へ、大名の姫君でもせるような豪奢なよるものを敷いて行った。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
別に資本のいると申すでもなし座敷の飾り夜のもの皿小鉢のいくらかを、分けて戴けばそれで済みまする。
野路の菊 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
このように冷える所で、そうしてござっては、御風邪など召すとわるい、どれ、私が夜のものをかけて進ぜましょう。(部屋の片隅の押入れから夜具を出そうとする)
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
使ってるものには立派過ぎた夜具、敷蒲団しきぶとん、畳んだまますそへふっかりと一つ、それへ乗せました枕は、病人が始終黒髪を取乱しているのでありましょう、夜のものの清らかなるには似ず垢附あかつきまして
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜のものは敷いたまゝでした。
堂守の妙達とは、日ごろ顔見知りだったので、御扉みとびらを開けてくれたのも、薄い夜のものをかしてくれたのも、みな彼の親切だった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、この男の旅姿を見た時から、ちゃんと心づもりをしたそうで、深切しんせつな宰八じじいは、夜のものと一所に、机を背負しょって来てくれたけれども、それは使わないで、床の間の隅に、ほこりは据えず差置いた。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
元気なのは、れ三味線を借りて来て爪弾つめびきをしているし、皮膚の青白いのは、もう夜のものかずいで、壁に向って寝こんでいる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丹女は立って、さながら出陣のそれにも等しく、すべてきよらかな木綿もめんの肌着、腹巻、小袖、細々こまごました旅のものまで、一揃いそこへ運んで来た。
綽空は、その夜のものにくるまれて、この幾夜かを、ふたたび夢魔に襲われとおした——いや魔というべくは余りにやわらかい悩ましさである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薄い夜のものに代って、べつな寝具が備えてある。決して、ぜいたくな品ではないが、あかのにおいのないものであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
這入ってみると、そんなビクついたものではなく、草を編んだ敷物もあれば、毛皮、夜のものも片すみに積んである。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
住持から受けて来たらしい餞別せんべつの笠、草鞋わらじなど、旅装のものを枕べにおき、短檠たんけいの灯を消して、寝床とこについた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
書院の隣室には、もう夜のものべてある。老体の佐渡は、横になりたかった所だが、子どもが好きとみえて、伊織が、ちょこなんと住職のそばに坐ったのをみると
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すこしの暇でもあれば、彼女も母のそばへ来て、ともにをあわせていた。ここへ移ってからの彼女は一切召使の手をからず、母の食事からよるものの上げ下ろしまでみなしていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……もし、枕を、枕を」お吉は、酒顛童子しゅてんどうじのようになって寝入った良人を、怖々こわごわとのぞいて、そっと、その顔を木枕へのせてやり、足の上へよるものをかけて、ほっと自分にかえった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喰べたらその代りに、こんどは仲よう歩いてもよ。もう一、二里じゃ。墨染の伯母さまの家まで行けば、お美味いしい物もたんと下さろ。夜のものも暖かにして下さろ。もうすこしのご辛抱ぞや
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぜひなく家臣たちは、夜のものを着せかけて、そっと杯盤はいばんをとりかたづけ、やがてみな、疎林そりんの外で、夜営の支度にかかっていた。そして、そうした外の物音もせきとひそまり返った頃である。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……そして、ふと眼をさました時は、川や海に近い水郷の常として、そこらの壁や、夜のものまで、じっとりと、水気をふくみ、自分のそばに、もひとり黒髪をみだしたものが寝くたれていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……でも、夜のものも召さずに、そんな所でお横になっていらっしゃると」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よるものは、お寒うないようにしてあるか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とつぜん、彼は夜のものねのけた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「夜のものがお粗末すぎる」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)