先度せんど)” の例文
わたくしの友人のTという男——みなさんも御承知でございましょう、先度せんどの怪談会のときに「木曽の旅人」の話をお聴きに入れた男です。
慈悲心鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「暗うて、よう見えへんけど……先度せんど昼来ておそわった事があるよって、どうやらな、底の方の水もせんせんと聞えるのえ。」
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むをず、まつ東面とうめんはうあなひらかうとして、草原くさはらけてると、其所そこけの小坑せうかうがある。先度せんど幻翁げんおう試掘しくつして、中止ちうししたところなのだ。
先度せんど、長左衛門さんの方のが売立に出たことがありましたので、久し振りに拝見に出ましたが、どうも同じ図同じ彩色ですが筆味が違うように思いました。
座右第一品 (新字新仮名) / 上村松園(著)
あんた、先度せんどいでやはった時に、わてに口かけときなさりながら、島原しまばら太夫たゆうさん落籍おさせやしたやないか。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いうてまた、二人で仲好う大阪いかよてた先度せんどごろの生活を取り返してみたいような気イもしますねん。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「まさか先度せんどのような大暴風雨おおあらしにはなるまいかと思うが、時刻も風の方向むきもよく似ているでなあ!」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
御淋おさびしゅう御座りましたろう、御不自由で御座りましたろうと機嫌きげん取りどり笑顔えがおしてまめやかに仕うるにさえ時々は無理難題、先度せんど上田うえだ娼妓じょうろになれと云いかかりしよし。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
カピ長 先度せんどまうしたとほりを繰返くりかへすまでゞござる。何分なにぶんにも世間せけん知らず、まだ十四度よどとはとし變移目かはりめをばむすめ、せめてもう二夏ふたなつ榮枯わかばおちばせいでは、適齡としごろともおもひかねます。
先年江戸へ上るとき世話になった駿河本町するがほんまち二丁目、旅籠屋はたごや菱屋与右衛門ひしやよえもん方へ先度せんどの礼かたがた三日程泊り、八月二十四日に京都へ着いて山科やましな三井八郎右衛門みついはちろうえもん四季庵しきあんでまた三日ばかり
先度せんどの小金井行きとは違って、三人は雨支度の旅すがたで、菅笠、道中合羽、脚絆、草鞋に身を固め、半七はふところに十手を忍ばせていた。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お辰の話きいては急につのを折ってやさしく夜長の御慰みに玉子湯でもしてあげましょうかと老人としより機嫌きげんを取る気になるぞ、それを先度せんども上田の女衒ぜげんに渡そうとした人非人にんぴにん
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それからあのう、先度せんどのことはみんな自分が阿呆あほだしてんよって、誰恨んだり怒ったりすることあれしませんけど、あんたも今更わたしのこと『姉ちゃん』やなんていわんといて頂戴。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたくしも先度せんどの腹癒せに引っぱたいてやりました。いや、乱暴なわけで……。さすがの半介もぎゅうと参って、とうとう素直に白状しました。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
先度せんども物に狂うた法師にとらわれて、ほとほと難儀しているところを、お前に救うてもろうたに、今夜もまた……。とりわけて今夜の怖ろしさ、わたしは生きている心地もなかった」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)