余儀よぎ)” の例文
旧字:餘儀
一方、個人雑誌「新風土」も、そのために自然廃刊はいかん余儀よぎなきにいたり、何もかもが当分休止という状態になってしまったのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
飛騨は名に負う山国であるから、山又山の奥深く逃げこもった以上は、容易に狩出かりだすこともできないので、余儀よぎなく其儘そのまま捨置すておいた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
横里某の出現によって、苗子の心から雲の如く霧の如く吹き飛ばされてしまったことは、誠に余儀よぎない事であったと申すの外はありません。
「ああ! どうぞ勘弁かんべんしてください!」とおとここたえた。「このんでいたしたわけではございません。まったくせっぱつまって余儀よぎなくいたしましたのです。 ...
その上、まぐろが熱し過ぎるというのは野暮やぼである。まぐろのなまを好まない人は余儀よぎないことであるが、前者のやり方の茶漬けに越したことはない。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
ようやくに氷錨アイス・アンカーを解いて、西南西の方向に約十二マイルほど進むことが出来たが、またもや一大浮氷に妨げられて、そこに余儀よぎなく停船することとなった。
「ちやつとおきなされませい。」此がために、紫玉は手を掛けた懐紙ふところがみを、余儀よぎなく一寸ちょっと逡巡ためらつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
愛惜あいせきの気持ちが復一の胸にみ渡ると、散りかかって来る花びらをせき留めるような余儀よぎない焦立いらだちといたわりで真佐子をかたくきしめたい心がむらむらと湧き上るのだったが……。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その前に岩国の錦帯橋きんたいばし余儀よぎなく見物して、夫れから宮島を出て讃岐の金比羅こんぴら様だ。多度津たどつに船が着て金比羅まで三里と云う。行きたくないことはないが、金がないから行かれない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ここにおいて我が正義党は国民の名により、世界正義の名により、閣下に対し天誅を加うるの余儀よぎなきに至りたることを遺憾とす。既に我が党は中央執行委員会にてこのことを議決せり。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
通抜とほりぬけ無用の札を路次口ろじぐちつて置くのは、通抜とほりぬけらるゝ事を表示へうしするやうなものだと言つた人があるが僕も先刻せんこく余儀よぎなき用事で或抜裏あるぬけうら一足ひとあし這入はいるとすぐにめうなる二つの声を聞いた亭主ていしいわ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
別に職人を嫌ってでもないのにまるで前世からの約束事ででもあるように父親甚作の仕事を継いでしまったことは余儀よぎない回り合せとはいえ、かやにとっては不思議な運命とより思えなかった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
『内蔵助の申し条、臣として、余儀よぎないことに思われる』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今は余儀よぎなく真近まぢかのひとりを血祭りにあげた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
転業てんぎょう余儀よぎなくされたのでした。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さきにハノーヴァ王家の好意にそむいたヘンデルが、宮廷から遠ざけられたのもまた余儀よぎないことである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
しかし、いっそうわるいのは、ああした打ちかたを余儀よぎなくさせた君らの態度だ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
毎日まいにち/\あまりしつこかつたもんだから、とう/\余儀よぎなさゝうなお顔色かほつき
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
およそ維新前、文久二、三年から維新後、明治六、七年の頃まで、十二、三年の間が最も物騒な世の中で、この間私は東京に居て夜分は決して外出せず、余儀よぎなく旅行するときは姓名をいつわ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その間宗太郎は外にたって居たが、十二時になっても寝そうにもしない、一時になっても寝そうにもしない、何時いつまでも二人差向いで飲んで話をして居るので、余儀よぎなくおめになったと云う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)