つくだ)” の例文
たとへば春さき灰緑に芽ぐんで來るつくだ島の河沿の河原の草などを見る時分には、どうしても黒田さんの樣風マニエエルを想ひ出さずには居られない。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「あら、本当だよ。去年の秋かたづいて……金さんも知っておいでだろう、以前やっぱりつくだにいた魚屋の吉新、吉田新造って……」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
年じゅう素股すまたの魚屋から、裸商売のつくだから来るあさり売りまで、異国の人に対しては、おのれらの風俗を赤面するかに見える。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つくだの者で四十男、伊勢新の釣に網のお供をさせられますが、金にはなっても、人も無気なげな豪勢振りが、少し小癪こしゃくに障っているらしい口吻くちぶりです。
長屋中の弥次馬の波を分けて、橋詰のお番屋へ富五郎を縛引しょっぴいた藤吉と勘次、つくだにかかる新月の影を踏んで早くも今は合点小路へのその帰るさ。
つぶやいたまま、うっとりとして、三叉の銀波、つくだあしの洲などに眼を取られて、すぐ桟橋へ上がろうともしなさらない。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金造 この間二軒茶屋の前で、つくだの者と喧嘩して、相手に疵をつけた時、俺を庇ってくれたのはあの人だよ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
一日のはげしい勞働につかれて、機械が吐くやうな、重つくるしい煙りが、石川島いしかはじまの工場の烟突から立昇つてゐる。つくだから出た渡船わたしぶねには、職工しよくこうが多く乘つてゐる。
佃のわたし (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
……彼岸ひがんの中日から以後十日までのあいだは中川の川口、それ以後は、つくだと川崎が目当て場になります
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
朝早く自分たちは蘆のかげなる稽古場に衣服を脱ぎ捨て肌襦袢はだじゅばんのような短い水着一枚になって大川筋をば汐の流にまかして上流かみ向島むこうじま下流しもつくだのあたりまで泳いで行き
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ほかにも六蔵、重吉、紋次、鉄蔵という同類があって、うわべは堅気の町人のように見せかけながら、手下の船頭どもを使って品川やつくだの沖のかかり船をあらしていた。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……かつつくだから、「かにや、大蟹おほがにやあ」でる、こゑわかいが、もういゝ加減かげんぢいさんのふのに、小兒こども時分じぶんにやあ兩國下りやうごくしたいわしがとれたとはなした、わたし地震ぢしん當日たうじつ、ふるへながら
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼は、つくだ一郎という姓名であった。C大学で比較言語学を専攻し、古代の印度、イラニアン語をやっているのだそうだ。国は裏日本で、研究のかたわら、Y・M・C・Aの仕事を手伝っていた。彼は
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
川上から流す大いかだなど、一方越中島口には外輪車の蒸汽船が江戸川通い、なまぬるい汽笛を後に悠々と出て行く姿、遠くつくだ沖の真帆片帆、房州から来る押送りの魚船など、江戸の繁昌を持ち越した形
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
「——つくだの三之助、御用だぞ」
暴風雨の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いえね、あの病気は始終そう附きりでいなけりゃならないというのでもないから……それに、今日つくだの方から雇い婆さんを
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「ところで親分、これがあべこべだと話になりませんよ。お寿はつくだで育って、あんな華奢きゃしゃに見えるくせに、泳ぎは河童かっぱの雌ほどうまいそうですよ」
船はいつしか狭い堀割の間から御船手屋敷おふなでやしきの石垣下をめぐってひろびろとしたつくだ河口かわぐちへ出た。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たった一人の、つくだのおふくろにまで、愛想を尽かされて、湯灌場にさえ屋根代を出さねえじゃならねえ奴を、どうお間違えなすったか、来なくッちやいや、寂しい、と勿体至極もねえ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
河上かみの方から出てきた船は、下流しもつくだの方まで流してゆく。下流の方から出てきた船は竹屋を越えて綾瀬の方まで涼風におしおくられてゆく。そして夕暗といっしょに両方がまたぎよせてくる。
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
実はね、横浜はまからこちらへ来るとすぐつくだへ行って、お光さんの元の家を訪ねたんだ。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「海なら、つくだからでも、あたしのうちの座敷からも見えるのに。」
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
つくだ々と急いでげば
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)