仮病けびょう)” の例文
旧字:假病
「さよう不思議なご病気にな。一名仮病けびょうとも云われるそうな」「不面目病とも申されるそうな」「恥晒はじさらし病とも申されるそうな」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
仮病けびょうをつかって、家の二階にごろごろしていることはねえ。さっさと飛び起きて、草鞋わらじをはく支度をするがいいじゃあねえか」
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
仮病けびょうでござりました。かみを、いつわりました罪、いくえにも、お罰し下さりませ」範綱は、そういって、さらに、語気をあらためて諫奏かんそうした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「否、立派な健康体です。いて名をつければ仮病けびょうですな。これは学生時代からの痼疾こしつだから、もう快癒かいゆの見込はありません」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と葉子は何げなく微笑を続けようとしたが、その瞬間につと思い返してまゆをひそめた。葉子には仮病けびょうを続ける必要があったのをつい忘れようとしたのだった。それで
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いっさいの招待を断わるために仮病けびょうをつかってると、言ってやった。
道草を喰って授業に遅れたり、仮病けびょうを使って休んだりする者は直きに探偵の為めに證拠を掴まれるから、好い加減な譃をつく訳には行かなかった。———そう云われゝば貝島は思いあたる節があった。
小さな王国 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一週間ののち私はとうとう堪え切れなくなって仮病けびょうつかいました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これはいかん」と、その日から仮病けびょうをつかい始め、宿痾しゅくあの再発に悩んで近頃引き籠り中と、味方にまで深く偽っていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折角助けた娘は橋場へ行っているあいだに、向うで男が出来てしまった。家へ帰ってもやっぱり橋場が恋しいので、仮病けびょうをつかって熊が出るなんて騒いでいる。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
葉子が古藤を連れて横浜に行ったのも、仮病けびょうをつかって宿屋に引きこもったのも、実をいうと船商売をする人には珍しい厳格なこの永田に会うめんどうを避けるためだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかしこれでは今まで仮病けびょうを使っていたことを認めた形で、むしろ有難迷惑だった。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さすれば孟達の良心は自らの苛責かしゃくに、進むも得ず、退くも難く、結局、仮病けびょうをつかって、逡巡しゅんじゅん日を過してしまうでしょう。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「神経衰弱ははたから見ていると仮病けびょうのようだけれど、あれでナカ/\苦しいんですってね。丹波さんも然う仰有っていましたよ。増本さんの家のようなこともあるんだから、油断はなりません」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
興録さん、そうおっしゃればわたし仮病けびょうじゃないんですの。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「いやいや、よく仮病けびょうをかまえる男だ。這奴しゃつの不快とは、心の不快で、去年の出陣に、武者所がヤイヤイと催促したのを、恨みとしておるらしい」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ガヷナーのこそ真物ほんものだろう。主人だから仮病けびょうを使う必要がない」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
仮病けびょうも考えたが、そうもなるまいと、思い直して、束帯そくたいを着、華冠はなかんむりを、頭にのせた。そしてあごを上げて、妻にひもを結ばせながら、いいつけた。
「否、神経衰弱は仮病けびょうだよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
仮病けびょうをかまえこの大事な日に欠席するなど、言語道断、彼に真底からの忠なく信もなきことは、はやくも今日に見えたり——という者などあった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この九叔としては、納棺の判証は下せませんから、じつあ仮病けびょうをつかって逃げたんです。あとは子分委せとしましてね。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
巡礼だか六部ろくぶだかになりやがって、仮病けびょうをつかってこのやしきの前に倒れたなあうぬの手段だ。そんなことはこの百助が、三年も前からにらとおしているんだぞ。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
井口城の胸突坂むなつきざかを駈け上り、二の丸門も同様な手段で突破し、本丸の中門まで来ると、先にはいっていた腹心の家来が、仮病けびょうとなえていた久作と共に、内から開いた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼奴きゃつは、前々より不審な仮病けびょうとなえて、ひきこもっておりますれば、当然、あてにはなりません」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、この籠居ろうきょは、あながち仮病けびょうでもないらしい。彼としては充分に病みつくだけの理由はある。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、ほんとに病気らしく思わるる。梅雪入道は正直な男、よも仮病けびょうなどではありますまい」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……しかしさすがは里村紹巴じょうは仮病けびょうよそおうてのがれもせず、嵯峨口からでも五十余町もある山を、あたふたと登って参ったところは、似而非風流えせふうりゅうではない。わが友とするに足るおとこ
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
、わしとお身は、あざむいているのだ。——仮病けびょうとは知らない信者たちは、見ていると、一刻もはやく御病気がえますようにと、御本堂で祈念をこめて帰って行きなさる。——あれを
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんたらことじゃ。あの娘ッ子はの、いうたら、お客さんに悪いかしらんが、ほんまの病気じゃのうて、仮病けびょうして、不貞寝ふてねしていよったのだによ。老婆としよりの眼から見たらようわかるがの」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稲葉山いなばやま斎藤義龍さいとうよしたつ養父ちち道三山城守どうさんやましろのかみが、自分を廃嫡はいちゃくして、二男の孫四郎まごしろうか、三男の喜平次きへいじをもり立てようとしているのを察して、仮病けびょうを構えて、そのふたりを呼びよせ、これを殺してしまった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「世間へ仮病けびょうが知れても大事ございませんか。裏道を通りましょうか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが仮病けびょうの証拠でなくてなんだ。また、かかる軍廷において、親の母のと、すぐ泣き落しの口実を構えおるが、そもそも、汝の父親が、前身何者かぐらいなこと、百も承知せぬ高俅ではないのだぞ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「女房、罪なことをしたな。じつあ、おれの悶掻もがきは仮病けびょうなのさ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その日から、沮授は仮病けびょうをとなえて、陣務にも出てこなかった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、あとで思えば、義貞のも仮病けびょうだったにちがいない。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そなたにも、また家臣たちにも、そう心配かけてはすむまい。……今は何事もにんの一字が護符ごふよ。この九郎さえ忍びきればおことらの心も休まろう。——通せ、ここでよい。義経が仮病けびょうでないことも、景季の眼に見せてくりょう」
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仮病けびょうではないのか?」