下地したじ)” の例文
かような下地したじのあるところへ、霊魂なるものが、別に存するごとくに思わせる事情がたくさんにあるので、だれもかれもがかく考えるようになった。
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
加えた者は北の新地辺に住むぼう少女の父親ではなかったかというこの少女は芸者の下地したじッ子であったからみっちり仕込んでもらう積りで稽古のつらさを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
重兵衛 (苦々にがにがしそうに。)どうも騒々しいな。い加減にしゃべって置け。一杯や二杯の酒で調子の狂うお前じゃあねえが、今夜はよっぽど下地したじがあるな。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この下地したじッ子が、二、三年たってから、盆暮れの宿下やどおりに母親につれられて来て、柳橋へ帰るかえりに寄った。
図案をるため、琳派や土佐画の模写に眼をただらした事があるので、何かの折、いたずら描きでもぬたくると、今でもその下地したじが意識なく出るのである。
この村のひらかれたことを証するのみならず、後日領家と地頭との間に収納に関する諍訟があって、当時最も普通なる和与わよ手段により、双方の間に下地したじ中分ちゅうぶんして
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
塗りにも、塗り方は、堅地かたじ泥地どろじとあって、堅地は砥粉地とぎこじ桐粉地きりこじとあり、いずれもいで下地したじを仕上げるもの。上塗うわぬりは何度も塗って研磨して仕上げるものです。
「うん。こうして輿論よろんを喚起しておいてね。そうして、先生が大学へはいれる下地したじを作る……」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
千本格子の入口に大きな提灯ちょうちんが下って、〆八しめはちという名が書いてあり、下地したじとでもいうのでしょう、髪だけ綺麗に結った女の子が、襷掛たすきがけで格子を丁寧にいていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そして所望しょもうされるままに曾根崎そねざき新地しんちのお茶屋へおちょぼ(芸者の下地したじ)にやった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
切棒の駕籠かごにも乗らず、お供の国公をも召連れず、薬箱も取りえずに駈けつけて、下地したじのあるところへ病家先の好意で注足つぎたしをし、その勢いに乗じて、長者町へ帰るべきものを
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
年齢十歳余までは親の手許てもとに置き、両親の威光と慈愛とにてよき方に導き、すでに学問の下地したじできれば学校に入れて師匠の教を受けしめ、一人前の人間に仕立したつること、父母の役目なり
中津留別の書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
周旋屋のいいのに会えば、一流地の芸者の置き家に下地したじとして入れて貰えるが、ひょんなめぐり合わせで、同じその女の子が吉原の貸座敷(女郎屋)に奉公させられるという場合もあるのだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
が、寺は其反対に荒れ果てて、門は左程さほどでもなかったが、突当りの本堂も、其側そのそば庫裏くりも、多年の風雨ふううさらされて、処々壁が落ち、下地したじの骨があらわれ、屋根には名も知れぬ草が生えて、ひどさびれていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
下地したじがいけないんだから、と嘲つてゐるやうな気がした。
一の酉 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
「出たのは後でも下地したじがあったんですわ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「このたび、中国入りのお手引も、悉皆しっかい、黒田殿の政略と、その下地したじあってのことと、お伺いいたしました」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遊芸については幾らか下地したじがあるというほどで無くとも、相当の趣味はあったのかも知れません。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それやこれやを考へると、矢張あの当時から将来関西に定住する下地したじがあつたのに違ひない。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その押問答の末は下地したじ中分ちゅうぶんと言って、これだけは地頭にやるから残りは手を出さぬようにしてくれということに帰着し、以前一つの開墾地であったものが二つに割かれた。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
立派な大仏の形が悠然ゆうぜんと空中へ浮いているところは甚だ雄大……これが上塗うわぬりが出来たらさらに見直すであろうと、一層仕事を急いで、どうやら下地したじは出来ましたので、いよいよ
いわゆる良民のうちにも、下地したじが好きで、意志がさのみ強くないものもあります。見ているうちに乗気になって、鋸山のこぎりやまへ石を仕切しきりに行く資本もとでを投げ出すものがないとはかぎらない。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
気管支炎と云えば肺病の下地したじである。肺病になれば助かりようがない。なるほどさっき薬のにおいいで死ぬんだなと虫が知らせたのも無理はない。今度はいよいよ死ぬ事になりそうだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
下地したじはよし、折ふしの炎暑に、智深もうだッていたところであるから、一も二もなく、誘いにまかせた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老来ろうらい量を節してはいても、もと/\下地したじは好きな方で、過せばいくらでも過せる国経は、今宵は自分が主人役として容易ならぬ人を迎え、粗相そゝうがあってはならぬと思うところから
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
総領の衰微はすなわち庶子しょしの分立で、分割相続は日本の国風であったゆえに、家督の制度は久しく存続することが困難であった。この間にまた領主と地頭との論諍はしばしば下地したじ中分ちゅうぶんを促した。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
案ずるより生むはやすいとでも言ったものか、実は、ぴったりとその注文にはまりそうな代物しろものが、眼の前にあるから不思議じゃないか、下地したじは好きなり御意ぎょいはよし、という心当りがあるから妙なもの。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)