一刹那いつせつな)” の例文
して、事あらはれなば一振ひとふりやいばに血を見るばかり。じやうの火花のぱつと燃えては消え失せる一刹那いつせつなの夢こそすなはち熱き此の国の人生のすべてゞあらう。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
手を動かし足を動かす一刹那いつせつなに、今にも又、不公平な運命の災厄さいやくがこの身の上に落ちかゝりはしないかとぢ恐れ、維持力がなくなるのであつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
青年の手がわずか二寸ばかり右に寄るか、左によるか、その一刹那いつせつなのまぐれ当りによって、泣いてもわめいても取り返しのつかぬ生死の運命が決してしまうのだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
誰が、この顔を見てそんな真似が出来ます。かう書くと、長い間の事のやうですが、実際は、殆、一刹那いつせつなの中に、こんな自責が、私の心にひらめきました。丁度、その時です。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
敵は帆村が手許にとびこんできたのにハッと狼狽して拳銃ピストルをとりなおそうとする一刹那いつせつな
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いやはなしませぬはなされませぬおまへさまころしては旦那だんなさまへみませぬといふはまさしく勘藏かんざうか、とおたかことばをはらぬうちやみにきらめく白刄しらは電光いなづまアツと一聲ひとこゑ一刹那いつせつなはかなくれぬ連理れんり片枝かたえは。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
第六囘だいろくくわいいたりてはじめて、殺人さつじん大罪だいざいなるかいなかの疑問ぎもん飮食店いんしよくてん談柄だんぺいより引起ひきおこし、つい一刹那いつせつなうかいださしめて、この大學生だいがくせいなんあだもなき高利貸こうりかし虐殺ぎやくさつするにいたる。だいくわいその綿密めんみつなる記事きじなり。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
未来派の絵の特色は種種しゆ/″\あるが、一刹那いつせつなに幾多の印象が「併存」し、「連続」し、「混融」し、「反撥」し、つ「乱迷」して流動しつつあることを画布の上に再現しようとするのが其一そのいつである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
赤き震慄おびえ接吻くちつけにひたとふる一刹那いつせつな
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一刹那いつせつな、背をしてゐた
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
一刹那いつせつなつぼにあふるる火のゆらぎ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)