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黄昏方
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たそがれがた
ある
日の
黄昏方、
兄さんは、
外から
歌をうたって
帰ってきました。さち
子は、この
歌をきくと、
身ぶるいするような
気がしました。
旅人は、
昨日の
黄昏方見たわら
屋までやってきますと、その
家は、まったくの
破れ
家で、だれも
住んでいませんでした。
黄昏方の
空に、つばめはないています。そのつばめの
鳴く
声は
故郷の
海岸の
岩鼻でなくつばめの
声を
思わせました。
黄昏方の
空は、
水あめのような
色をしていて、ひどい
風が、ヒューヒューと
音をたてて
吹いていました。
まだ、
寒い、
早春の
黄昏方でありました。
往来の
上では、
子供らが、
鬼ごっこをして
遊んでいました。
また、
波の
静かな
港の
口には、いくつも
船が
出たり
入ったりしていました。
遠くへいく
汽船は、おっとりとうるんだ、
黄昏方の
空に、
黒い
一筋の
煙を
上げていました。
彼は、この
黄昏方に、じっとさかずきを
手に
取って、
見入りながら、
利助というような
名人が百
年前の
昔、この
世の
中に
存在していたことについて、とりとめのない
空想から
あちらには、
春の
黄昏方の
空が、うす
紅く、
美しい、
夢のように
見られたのであります。