駈戻かけもど)” の例文
「ぷッ、」と噴出すように更に笑った女が、たまらぬといったていに、裾をぱッぱッと、もとのかたへ、五歩いつあし六歩むあし駈戻かけもどって、じたように胸を折って
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取るものも取りあえず駈戻かけもどったが、須磨子は自用の車で、他の者は自動車だったので、一足さきへついたものは須磨子の帰るのを待つべく余儀なくされていると
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
前回参看※文三は既にお勢にたしなめられて、憤然として部屋へ駈戻かけもどッた。さてそれからは独り演劇しばいあわかんだり、こぶしを握ッたり。どう考えて見ても心外でたまらぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
新聞懐中して止むるをきかずたって畳ざわりあらく、なれ破屋あばらや駈戻かけもどりぬるが、優然として長閑のどかたて風流仏ふうりゅうぶつ見るよりいかりも収り、何はさておき色合程よく仮に塗上ぬりあげ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たちまち起上りし直行は彼の衿上えりがみ掻掴かいつかみて、力まかせに外方とのかた突遣つきやり、手早く雨戸を引かんとせしに、きしみて動かざるひまに又駈戻かけもどりて、狂女はそのすさましき顔を戸口にあらはせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あるいは首尾好く町の方へ逃げ延びたかも知れぬと、彼は念の為にかく駈戻かけもどったのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
樹島はほとんど目をつむって、ましぐらに摩耶夫人の御堂に駈戻かけもどった。あえて目をつむってと言う、金剛神の草鞋が、彼奴きゃつの尻をたたき戻した事は言うまでもない。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋の上を振廻して、空を切って駈戻かけもどった。が、考えると、……化払子ばけほっすに尾が生えつつ、宙を飛んで追駈おっかけたと言わねばならない。母のなくなった、一周忌の年であった。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところで——ちゝの……危篤きとく……生涯しやうがい一大事いちだいじ電報でんぱうで、とし一月いちぐわつせついまだ大寒たいかんに、故郷こきやう駈戻かけもどつたをりは、汽車きしやをあかして、敦賀つるがから、くるまだつたが、武生たけふまででれた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
学生さんの制服で駈戻かけもどって来なさいましたのは水道橋の方からでございましょう。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
声を便りに駈戻かけもどって、蘆がくれなのを勇んで誘い
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)