難所なんじょ)” の例文
東に迷い、南に迷い、彼女かれは実に幾時間を費したか知らぬが、人の一心いっしんは怖しいもので、うやらうやら難所なんじょ乗切のりきったらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山道でとんと往来がありませんので、ごく難所なんじょですから案内者がなければいけませんと聞いて、其のうちに案内者を頼みまして、翌朝よくちょうになると
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
万事汝等なんじらの責任と良識りょうしきによって前途を開き進め、人生は「親知らず」の難所なんじょであると言いたい気分でいる。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
そばには重太郎が獣のような眼をひからして見張っている。窟の奥には山𤢖らしい怪物ばけものも居る。みちは人間も通わぬ難所なんじょである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と無暗に手を引いて渡場わたしばへ参り、少しの手当を遣って渡しを越え、此処から笹沢さゝざわ、のりばら、いぼりたに片掛かたかけたにと六里半余の道でござりますが、これから先はごく難所なんじょ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お杉は通い馴れたみちであるから不思議はないが、お葉がうして難所なんじょ跳越はねこえ、渡り越えたかは疑問である。おそらく夢のようで自分にも判るまい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
到頭四万の山口へ参りましたが、只今は車道くるまみちが開けましたので西の方の山岸へ橋をかけまして下道しもみちを参りますが、以前はかみの方を廻りましたもので中々難所なんじょでございました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
南のかたには赤城山が一面に見え、うしろは男子山、子持山こもちやま、北にあたって草津から四万の筆山ふでやま吾妻山あづまやまから一面に榛名山はるなさんへ続いて見える山又山の難所なんじょで、下は削りなせる谷にして
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それとも難所なんじょを越えて雪中に病でも求めなければいがと存じて心配するが、お前にまで心配させてはならんから、今日きょうは気を変えてブラ/\と八幡やわた八幡宮はちまんぐうへでも参詣致そうか
と皆々腕をさすって居りまする。さて中山道なかせんどう高崎より渋川、金井、横堀、塚原、相俣あいまたより猿が原の関所を越えて永井の宿しゅく、これを俗に三宿さんしゅくと申しまして、そろ/\難所なんじょへかゝります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
山三郎は馬も上手でございますから鞍へひらりとまたがりまして、最初は心静かにポカ/\とだくを乗りまして、陣屋前から大ヶ谷おおがや町を過ぎて、鴨居の浦を乗切のっきりまして、此処らは難所なんじょですが
此処こゝ一騎打いっきうち難所なんじょで、右手めてほうを見ると一筋ひとすじの小川が山のふもとめぐって、どうどうと小さい石を転がすようにすさまじく流れ、左手ゆんでかたを見ると高山こうざん峨々がゞとして実に屏風を建てたる如く
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と話をしながら漸く登りますると、是れから金精峠こんせいとうげと申して実に難所なんじょで、樹木は榧松かやまつ羅漢柏あすなろうの大樹ばかりで、かれこれ一里半ばかり登りますと、西の方は日光の男体山いずるさん此方こちら白根山しらねさんが見えまする。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)