金紗きんしゃ)” の例文
帯の掛けを抜いて引き出したので、薄い金紗きんしゃあわせねじれながら肩先から滑り落ちて、だんだらぞめ長襦袢ながじゅばんの胸もはだけたなまめかしさ。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
娘はクリーム色の金紗きんしゃの羽織を着て、如何いかにも女給のようだったし、母親は木綿の羽織に、手拭てぬぐいで襟あてをしていた。
貸家探し (新字新仮名) / 林芙美子(著)
新調するのもいいが、メリンス友禅や金紗きんしゃちりめんみたいなものを使われるんじゃ、こわしだね。人形の着附は能衣裳のように古いほど有難味がある
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「お母さん、お正月には金紗きんしゃを一枚拵えて頂戴よ。もう二年生ですもの、銘仙めいせんじゃカルタ会へ出られませんわ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
面長おもながしもぶくれな顔に黒いびんを張って、おしどりに結って鹿の上を金紗きんしゃでむすんでいた。
正吉しょうきち、この金紗きんしゃ羽織はおりは、仕損しそんじぬよう、ねんれてしなよ。」というように、主人しゅじんは、注意ちゅういしながらも、上等じょうとうのむつかしいしなをばえらんで、かれあつかわせるようにしました。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
何という生地きじかわからぬ金線入きんせんいり、刺繍裾模様の訪問着に金紗きんしゃの黒紋付、水々しい大丸髷おおまるまげだ。上げた顔を見ると夢二式の大きな眼。小さな唇。卵型のあご。とても気品のある貴婦人だ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
黒っぽい金紗きんしゃの衣類がネットリとまといついている。艶々つやつやと豊かな洋髪の下に、長い目、低い鼻、テラテラと光った厚い唇、と云って決して醜婦しゅうふではない。どこかしら異常な魅力のある顔だ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
年よりは地味造りで縺毛ほつれげ一筋ない、つやつやした髷に結って、薄紫の地に銀糸の縫をした半襟、葡萄の肌を思わせるようなすべすべした金紗きんしゃの羽織、帯や着物などくわしい事は私に分らないけれども
愛の為めに (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
着物は口綿の這入はいっている比翼のあわせで、金紗きんしゃちりめんとうのでしょうか、黒みがかった朱のような地色には、花を黄色く葉を緑に、点々と散らした総模様があり
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
初めて言葉を交してからもうかれこれ三月みつきぢかくになるが、今だに着通しに着ているお千代の着物を見ると、品物は金紗きんしゃの上等物でありながら、袖口そでぐちすそまわりの散々にいたんだのを
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
玉村の——お菓子屋の——お島ちゃんは面長な美女で、好んで黄八丈の着物に黒じゅすと鹿の子の帯をしめ、鹿の子や金紗きんしゃを、結綿ゆいわた島田の上にかけているので、白木屋お駒という仇名あだなだった。
さびしい目鼻立のようだけれども、厚化粧をすると実に引き立つ顔で、二尺に余る袖丈そでたけ金紗きんしゃとジョウゼットの間子織あいのこおりのような、単衣ひとえ羅衣うすもの間着あいぎを着ているのが、こっくりした紫地に
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おもやせがして、一層美をそえた大きい眼、すんなりとした鼻、小さい口、こてをあてた頭髪かみの毛が、やや細ったのもいたいたしい。金紗きんしゃお召の一つ綿入れに、長じゅばんの袖は紫友禅のモスリン。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
じみな焦茶こげちゃの日傘をつぼめて、年の頃は三十近い奥様らしい品のいい婦人が門の戸を明けて内に這入はいった。髪は無造作に首筋へ落ちかかるように結び、井の字がすり金紗きんしゃあわせに、黒一ツ紋の夏羽織。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
金紗きんしゃ元結もっといぐらいな長さの、金元結の柔らかい、よりのよい細いようなのを、二、三十本揃えたもの。芝居の傾城けいせいかつらにかけてあるのと同じ)だって、プツンとって、一ぺんかけただけだった。