野薔薇のばら)” の例文
次いではシューマンの『胡桃くるみの樹』(JD一一〇)、シューベルトの『野薔薇のばら』『なれこそわがいこい』など可憐なレコードだ。
冬になるとすっかり雪にうずまってしまうこんな寒村に一人の看護婦を相手にらしている老医師とその美しい野薔薇のばらの話
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
唄ってしまうと、一層はずかしそうにさし俯向うつむいていたが、しばらくしてから、又シューベルトの「野薔薇のばら」を唄い出した。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なぜというと、向こうには赤い屋根とはたが見えますし、道の両側には白あじさいと野薔薇のばらが恋でもしているように二つずつならんで植わっていましたから。
高野さちよを野薔薇のばらとしたら、八重田数枝は、あざみである。大阪の生れで、もともと貧しい育ちの娘であった。お菓子屋をしている老父母は健在である。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
黒い木の枝の先には、しわ寄った小さな手のように葉が開いていた。数本の林檎りんごの樹には花が咲いていた。細く伸びた野薔薇のばらが、まがきのほとりに微笑ほほえんでいた。
ふいに、野薔薇のばらの中へ、顔でもつッこんだような、強いにおいに、百はせた。お稲の手を、首すじに感じて、百は、あらい動悸どうきと、熱い血に、眼がまわって
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折れてる野薔薇のばらの一枝、そういうものも彼らの心を動かして、静かにうれいに浸ってる彼らの恍惚こうこつたる感情は、ただ泣くことをのみ求めてるかのようであった。
うたいかけた。この詩も、美妙の「野薔薇のばら」というのの一節だったが、妹は、うしろに立った母親に言った。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この一ヶ月中、このあなたときたらまるでうなぎのやうに掴まへやうがなく、野薔薇のばらのやうに刺したんですからね! どこにだつて一寸手をれゝば突き刺されたんだもの。
おぎんの心は両親のように、熱風に吹かれた沙漠さばくではない。素朴そぼく野薔薇のばらの花をまじえた、実りの豊かな麦畠である。おぎんは両親を失った後、じょあん孫七の養女になった。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこは町からも可成かなり離れてゐて、あたりには一軒の家もなく、人影も見えず、ただ「はまなし」と云ふ野薔薇のばらに似たやうな赤い花がところどころにぽつぽつ咲いてゐるばかりであつたが
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
朝露の野薔薇のばらのいへる
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ひょいと野薔薇のばらのことを忘れていたら、そういう気まぐれな私を責め訴えるかのように、その花々が私にさっきの香りを返してくれたのだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
こんな美しいやるせない感情を歌って、少しも安価な感傷や芝居気に堕さないクルプは尊いと思う。『野薔薇のばら』も『セレナード』も推賞される。
生籬いけがきには清い野薔薇のばらが花を開いていた。青銅色の葉をつけてるかしの木立の陰に、小さなテーブルが設けられていた。三人の自転車乗りがその一つに陣取っていた。
ひいらぎ蕁麻いらぐさ山査子さんざし野薔薇のばらあざみや気短かないばらなどと戦わなければならなかった。非常な掻傷そうしょうを受けた。
日吉も、於福も、仁王も、ほかのはならしも、眼をかがやかして、そこらの野薔薇のばらすみれや雑草の花をむしり取って、両手につかみ、眼の前を勇しい武将や兵が通るたびに
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野薔薇のばらのような可憐な顔ではなく、(女性の顔を、とやかく批評するのは失礼な事であるが)
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
寄宿舎から、その春、入寮したばかりの若い生徒たちは、一群れの熊蜂くまばちのように、うなりながら、巣離れていった。めいめいの野薔薇のばらを目ざして……
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
翌一八一五年は、百五十七曲の歌曲を書き、その中には「野薔薇のばら」や、「魔王」などがあった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
自分があんなにも愛した彼の病院の裏側の野薔薇のばら生墻いけがきのことを何か切ないような気持になって思い出していた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
野薔薇のばら」「アヴェ・マリア」「聴け雲雀ひばり」といった可愛らしいものが良い。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)