貼付はりつ)” の例文
暦や錦絵を貼付はりつけた古壁の側には、お房とお菊とがお手玉の音をさせながら遊んでいた。そこいらには、首のちぎれた人形も投出してあった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と天下の掟を掲げた高札の真ん中に何者の仕業しわざぞ、貼付はりつけた一枚の鼻紙、墨黒々と書かれたのは、この皮肉な落首でした。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
家庭料理をつかさどる人は有益なる事柄を知るに随ってこの欄内へ記入しおかるべし。また新聞雑誌にでたるものは切抜きて貼付はりつけらるるも可なり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
中々繁昌の様子で、其処そこに色々ながくが上げてある。あるいは男女の拝んでる処がえがいてある、何か封書が順に貼付はりつけてある、又はもとどりきっい付けてある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
其夕銀座通はおびただしい人出であったが電信柱に貼付はりつけられた号外を見ても群集は何等特別の表情を其面上に現さぬばかりか、一語のこれについて談話をするものもなく
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やがて、見慣れぬ木の葉を数枚持って来、それを噛んで狂少年の眼に貼付はりつけ、耳の中に其の汁を垂らし、(ハムレットの場面?)鼻孔びこうにも詰込んだ。二時頃、狂人は熟睡に陥った。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
或時あるとき徒然つれ/″\なるにまかせて、書物しよもつ明細めいさい目録もくろく編成へんせいし、書物しよもつにはふだを一々貼付はりつけたが、這麼機械的こんなきかいてき單調たんてう仕事しごとが、かへつて何故なにゆゑ奇妙きめうかれ思想しさうろうして、興味きようみをさへへしめてゐた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
型のごとく、青竹につるした白張の提灯ちやうちん、紅白の造花の蓮華れんげ、紙に貼付はりつけた菓子、すゞめの巣さながらの藁細工わらざいく容物いれものに盛つた野だんご、ピカピカみがきたてた真鍮しんちゆう燭台しよくだい、それから、大きな朱傘をさゝせた
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
すでに所々に剥落はくらくしていたし、それを隠すために貼付はりつけた外国映画のポスタアは、いつも端ののりが乾き割れるので、ただ一つ並木街へ面してひらいている小さな窓から、吹きこんでくる風にあおられては
溜息の部屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
長い袖の着物を着て往来を歩くような人達まで、手拭てぬぐいを冠って、すすほこりの中に寒い一日を送った。巡査は家々の入口に検査済の札を貼付はりつけて行った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
或時あるとき徒然つれづれなるにまかせて、書物しょもつ明細めいさい目録もくろく編成へんせいし、書物しょもつにはふだを一々貼付はりつけたが、こんな機械的きかいてき単調たんちょう仕事しごとが、かえって何故なにゆえ奇妙きみょうかれ思想しそうろうして、興味きょうみをさええしめていた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
炉は直ぐあがはなにあつて、焚火の煙のにほひも楽しい感想かんじを与へるのであつた。年々の暦と一緒に、壁に貼付はりつけた錦絵の古く変色したのも目につく。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お雪は乾いた咽喉のどうるおして、旅の話を始めた。やがて、汽船宿の扱い札などを貼付はりつけた手荷物が取出された。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とある町の角のところ、塩物売る店の横手にあたつて、貼付はりつけてある広告が目についた。大幅な洋紙に墨黒々と書いて、赤い『インキ』で二重に丸なぞが付けてある。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
三峯神社とした盗難除とうなんよけの御札を貼付はりつけた馬小屋や、はぎなぞを刈って乾してある母屋おもやの前に立って、日のあたった土壁の色なぞを見た時は、私は余程人里から離れた気がした。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)