あや)” の例文
そして縦繁たてしげの障子の桟の一とコマ毎に出来ているくまが、あたかも塵が溜まったように、永久に紙に沁み着いて動かないのかとあやしまれる。
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
高貴のなさることは概して下賤の常識では計りかねる非凡なところが多いのだから、その物々しい覆面も例の伝だと思ってさしてあやしむこともなかった。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
つるぎつゑに。松陰まつかげの。いはほさゝへて。吐息といきつく。時哉をりしも見ゆる。若武者わかむしやは。そもいくさの。使つかひかや。ればころもの。美麗うるはしさ。新郎はなむことかも。あやまたる。其鬚髯そのほうひげの。新剃にひそりは。秋田あきたを刈れる。刈稻かりしねの。そろへるさまに。
「西周哲学著作集」序 (旧字旧仮名) / 井上哲次郎(著)
エイホエイホ飛ぶ後から如来衛門と乾児こぶんの者は、遅れじとそれにいて飛ぶ。そしてその後を武者之助と彼の部下とが追って行く。この可笑おかな一団を村の人々はあやしがり、門にたたずんで見送った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其麽そんな事もないけれども……あやしげなもんだね。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
廉平は我ながら、あやしいまで胸がせまった。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
甘いへんのうの匂いと、ささやくような衣摺きぬずれの音を立てて、私の前後を擦れ違う幾人の女の群も、皆私を同類と認めてあやしまない。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
横着にも幸田節三は今やそれをまるまる独占ひとりじめにしあえてあやしむ様子もないから、さすがの博士も忌々しくなったものと見え、演説もろとも幸田を押退けると演壇の端まで進み出で
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
滋幹があやしみながら跡をつけると、父は脇目もふらずに前方を視つめ、きざはしを下りて、金剛草履こんごうぞうり穿いて、地上に立った。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は最初は自分の耳を疑い、次には妻の心をあやしんだ。今更になって何を彼女は訴えようとするのであろう。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は自分をあやしまずにはいられなかったが、けだし平中の思慕の情は、夫人が彼の及び難い高根たかねの花になったと云う事実に依って、挑発ちょうはつされたところもあろう。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なよなよとした、風にも堪えぬ後姿を、視詰めれば視詰めるほど、ますます人間離れがしているように感ぜられて、やっぱり狐の化けているのではないかとあやしまれる。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だから既に十三歳にも達した法師丸が、その美に酔わされたことは一往いちおうあやしむに足りないけれども、彼はその上にも、普通の男子には有り得ない極端な感情を経験した。
思わずあざけるようなひとみを挙げて、二階を仰ぎると、むし空惚そらとぼけて別人を装うものの如く、女はにこりともせずに私の姿をながめて居たが、別人を装うてもあやしまれぬくらい
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
格別あやしみはしなかつたが、でも気のせゐか、その夥しく眼やにの溜つた眼のふちだの、妙にしよんぼりとうづくまつてゐる姿勢だのを見ると、僅かばかり会はなかつた間に
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
格別あやしみはしなかつたが、でも気のせゐか、そのおびただしく眼やにの溜つた眼のふちだの、妙にしよんぼりとうづくまつてゐる姿勢だのを見ると、僅かばかり会はなかつた間に
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何もも分っているらしいのが不思議であったが、ふと、眼の前をきらりと落ちたものがあるので、あやしみながら振り仰ぐと、母が涙を一杯ためてあらぬ方角を視詰みつめていた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「お名残は盡きませぬけれど、そういつ迄もこゝに立っていらっしゃいますと、通行の人があやしみます。お参りが済んだら早うお戻りなされませ、あんまり暗うなりませぬうちに」
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この動物の無精な性質をみ込んでいる庄造は、こう云うそっけない態度にはれているので、格別あやしみはしなかったが、でも気のせいか、そのおびただしく眼やにのたまった眼のふちだの
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大助は果して何処へ消えてしまったのか? 花見の宴の事件以来警戒の眼が光っている中を、再び長持に隠れて誰にもあやしまれずに城外へのがれ去ることは、到底不可能であったに違いない。
されば襲撃の場所や時刻なども豫め打ち合わせが済んでいたので、河内介は人にあやしまれることなく、短時間のうちに仕事を成し遂げて、無事に石崖の下へ戻って来ることが出来たのである。
間に道路や大堰川がはさまっているようには思われない、そして花時の雑沓ざっとうの折にも、ここばかりは人里離れた仙境のように閑寂であり、外の群衆の騒音などは何処どこにあるかとあやしまれるばかりである
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
知らなかったのもあやしむに足りない。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こう云って瑠璃光丸があやしめば
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)