血潮ちしお)” の例文
こうおもいますと、やはり、むねなか血潮ちしおおどったのであります。いろいろのとりは、このまちそらに、またはやしなかいていました。
気まぐれの人形師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あれほどの勢いで短刀をつき立てあれほどの血潮ちしおが流れたのですから、被害者は、死なぬまでも、必ず非常な重傷を負ったことでしょう。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、つぶやいたが、ちょいと癪にさわる気がして、中村座のつい前の、結城座で、あやつりを見たが、しものが、何と「女熊坂おんなくまざか血潮ちしお紅葉もみじ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
さすがに若い血潮ちしおのいまだに胸に残ってるような気持ちで、その墨の色のうすい小さな文字の、かすかな落書きにひたいをつけるばかりに注視した。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
からだ中の血潮ちしおが、ドキドキと逆流ぎゃくりゅうするようだ。とてもジッとしていられない。が、さりとて、妙に体が硬張こわばって、声を立てることも、動くことも出来ない。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ズルズルと引き抜いて、パッと拡げると、隅っこの方にほんのわずかばかりですが、飛沫しぶいた血潮ちしおの跡。
なんだか黒い布を被っているように見えたが、見るとそれが赤い血潮ちしおだった。残酷ざんこくに頭部をやられているのだ。右肩を自分の手でおさえているが、肩もやられているらしかった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もがきにもがくうち、呂宋兵衛るそんべえくちびるをかみわって、タラタラと血潮ちしおをたらした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
チビ公はこう考えたとき少年の血潮ちしおが五体になりひびいた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
天井では、ひょうつめが、勇敢な道具方の若者を傷つけていた。その傷口から吹き出す血潮ちしおが赤い雨となって、雪紙を染めたのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あなたの姿すがたは、あのふねのほばしらのいただきに、潮風しおかぜかれて、ひるがえるあかはたのように、わたしむね血潮ちしおをわかせます。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、まさしく、ポトリと音がして、赤羽主任の掌上てのうえには、一滴の血潮ちしおが、円点えんてんを描いた。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
切り口の所からは真赤な生々しい血潮ちしおが流れ出していた。それがべにのとき汁だなどとは、誰にも考えられなかった。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とお水平線すいへいせんは、くろく、くろく、うねりうねって、られました。そら血潮ちしおのようにめて、あか夕日ゆうひは、いくたびか、なみあいだしずんだけれど、若者わかものふねは、もどってきませんでした。
海のまぼろし (新字新仮名) / 小川未明(著)
頸動脈けいどうみゃくを切断して、ドンドンその濁った血潮ちしおをかいだしても、かい出しつくせるものではなかった。彼の肉塊にくかいをいちいち引裂いて火の中に投じても、焼き尽せるものではなかった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
実は福田氏が飼っている、純白の雄猫なのだが、それが全身に血潮ちしおをあびて、物凄い赤猫と化けてしまったのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ああしかし無惨むざんなことに、龍子の胸から下をおおった白い病衣のその胸板むないたにあたる箇所には、蜂の巣のように孔があき、その底の方から静かに真紅な血潮ちしおが湧きだしてくるのだった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこには夫のと、人形のと、二つのむくろが折り重なって、いた血潮ちしおの海、二人のそばに家重代いえじゅうだいの名刀が、血をすすってころがっているのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夕闇の街路には、先刻さっきのエレベーター・ボーイを始め数人の人々が死体を取り囲んでいた。その真中に、ひしゃげた様な黒いものがよこたわって、暗い中にも、生々しい血潮ちしおがハッキリ見えていた。
麗子は、わざ大袈裟おおげさに「アレエ」と叫びながら、併しさもさも快げな表情で、目をふせて、腋の下にブルブル震う短剣を眺めた。身肉に喰い入った冷たい鋼鉄の感触。ふき出し流れる血潮ちしおにおい
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)