蓑虫みのむし)” の例文
旧字:蓑蟲
もちろん貝がらだけでなく生きた貝で、箱の中へ草といっしょに入れてやるとその草の葉末を蓑虫みのむしかなんぞのようにのろのろはい歩いた。
物売りの声 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ところが、マンは、まるで、蓑虫みのむしのように、身体を、堅く、掛け蒲団で包んでいる。しっかりと、両手で巻いていて、金五郎を寄せつけない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そこらの汀に、泥にくるまれた蓑虫みのむしのようなものが無数に見えましょう。虫でも藻草もぐさでもありません。泥魚でいという魚です。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入つて見ると、當の八五郎は、散々に縛り上げられた上、布團で卷かれて猿轡さるぐつわまで噛まされ、でつかい蓑虫みのむしのやうに轉がされて居るではありませんか。
近習たちも皆見た。ちょう日中ひるなかで、しかも空は晴れて居た。——はだきぬもうつくしく蓑虫みのむしがぶらりと雲からさがつたやうな女ばかりで、に何も見えなかつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
封建武士の思想には、鶏犬相聞う隣藩すら、相かかわらず。なんぞいわんや海外万里の世界をや。栄螺さざえはその殻を以て天地となし、蓑虫みのむしはその外包を以て世界とす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
女は蓑虫みのむしのやうに坊さんのくるまつた蒲団をめくりに掛つた。そしてその端の方に自分も小さく横になつた。
所司代の役人達は手にした鉄棒で、蓑虫みのむしのように頭ばかり出したその人俵ひとだわら胴中どうなかをびしびしとたたいた。改宗に志のある者は不自由な体を無理に動かして転がった。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蛇皮じゃびでも蓑虫みのむしでも何とかなりそうなものだ。どこへ行っても同じものばかりで実に藝がないな。
台湾の民芸について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
シェラ山岳会考案の「睡眠袋」を馬に積ませて来たので、蓑虫みのむしのように、その中にすッぽりもぐり込んで寝たが、乾き切った小石交りの砂地の上で、日本アルプスのように
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
と、昼寝のあとを庭で蓑虫みのむしを退治していた老人は、うしろに庭下駄の音を聞きつけて云った。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
第六種(怪火編)怪火、鬼火おにび、竜火、狐火きつねび蓑虫みのむし、火車、火柱、竜灯、聖灯、天灯
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
みのり あたし、去年の冬、蓑虫みのむし真裸まっぱだかにして、冷い雪の上に捨てちゃったの。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
蓑虫みのむしのようにグルグル巻にされたのを見すますと
皆子なり蓑虫みのむし寒く鳴きつくす 乙州
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
蓑虫みのむしの父よと鳴きて母もなし
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
短兵急に押しよせた張飛も、蓑虫みのむしのように出てこない敵には手の下しようもなく、毎日、防寨ぼうさいの下へ行っては
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、そんな者は影も形もなく、その代りどこから這い出したか、蓑虫みのむしのような汚ない身なりをした少年がひとり、けげんな顔をして三郎の顔を見上げているのでした。
九つの鍵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
水上みなかみの奥になるほど、樹の枝に、茅葺かやぶきの屋根がかかって、蓑虫みのむしねぐらしたような小家がちの、それも三つが二つ、やがて一つ、窓のあかりさず、水を離れた夕炊ゆうかしぎの煙ばかり
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また、蓑火みのびあるいは蓑虫みのむしと称するものがあるが、江州および越後地方にて申しておる。すなわち、秋期に当たり、夜暗く雨の強く降るときに野外を歩するに、蓑の上に怪火の点ずるを見る。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
秋蝉あきせみも泣き蓑虫みのむしも泣くのみぞ
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
武蔵は、むしろを身に巻いて、蓑虫みのむしのように石の上に寝ころんだ。——又八はどう寝ているだろう。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相棒の肩も広い、年紀としも少しわかいのは、早や支度したくをして、駕籠の荷棒にないぼうを、えッしと担ぎ、片手に——はじめてた——絵で知ったほぼ想像のつく大きな蓑虫みのむしげて出て来たのである。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
首尾よく、水車小屋の近くまで忍んで行くと、一枚のむしろがあったので、木の枝をそれにかえ、蓑虫みのむしのようにクルリと丸まりながら、なるべく人声に接近して、大きな歯車の蔭にそッと身をかがめめ込む。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「出よ、曹操。——汝は蓑虫みのむしの性か、穴熊の生れ変りか」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)