船渠ドック)” の例文
船はいつのまにか、船渠ドックの地上から十尺も高くかび出している。職長の指揮笛が、両舷のワイヤロープへあわただしく鳴っている。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間に、わが四隻の戦艦は、横須賀、呉、佐世保、神戸の船渠ドックに入って、装甲をつくろったり、新しく大砲をえつけたりした。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
ぼくたち二人は、しばらくその豆潜水艇恐龍号きょうりゅうごう(どうです、すばらしい名前ではないか)の運転を習うために、ギネタ船渠ドック会社へ通った。
恐竜艇の冒険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私達が着くと間もなく、扉船とせんの上部海水注入孔のバルブが開いて、真ッ白に泡立った海水が、おそろしいうなりを立てて船渠ドックの中へ迸出ほんしゅつし始めた。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
軍艦を船渠ドックに入れて修覆して呉れたのみならず、乗組員の手元に入用にゅうような箱をこしらえて呉れるとか云うことまでも親切にして呉れた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
オリエンタル船渠ドックの工場からは鉄槌の音が聞こえてくるし、対岸に孤立して立っている董家造船所のドックからは汽罐の音が聞こえて来る。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其の方を向くと船渠ドックの黒い細い煙突の一つから斜にそれた青空をくっきりと染め抜いて、真白く一団の蒸気が漂うて居る。
かんかん虫 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
豪州の社会党がなんら利害の関係を有せざるロンドン船渠ドックの労働者に向かって参拾万円を寄贈したというこの一事件は
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
「お母さん、あれが浮き船渠ドックです。」私は一々さう説明した。彼女が珍らしさうに目を見張つた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
事務所の前がすぐ海で、船渠ドックの中があおく澄んでいる。あれで何噸なんトンぐらいの船が這入りますかと聞いたら、三千噸ぐらいまでは入れる事ができますという須田君の答であった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伯父はエリスがチルブリー船渠ドックに遠からぬチャタムに住んでいた頃からの友達であった。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
それから手首を離して、そこにあった盃を執り上げると、ちょろりとあたしの鼻の先へしずくを一つ垂らして、ここのところのペンキがげてら、船渠ドックへ行って塗り直して来いと云うんです。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
バアクレイ・カアル造船会社によって、クライド船渠ドックで建造された。船体の各部、設備とも、凡べて船主であるB・A・Lブルウ・アンカア・ライン側の明細な注文に従って作られたのだ。
沈黙の水平線 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
十歳とおの時から船渠ドックで船腹の海草焼きだ。それから汽鑵かま掃除からペンキ塗りと仕上げて、今じゃツーロン潜水夫組の小頭で小鮫のポンちゃんといやア、チッたア人に知られた兄さんなんだヨ。
群集の狼藉ろうぜきこうむる以前に、船はゆらりゆらりと船渠ドックを出てしまいました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
船渠ドックの中で遣っても相当、骨の折れる仕事を、沖の只中で流されながら遣ろうというのだからね。……のみならず今も云う通り、七八千トンの屋台を世界の涯まで押しまわろうという鋼鉄はがねの丸太ン棒だ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いいのう、横浜も、波止場や船渠ドックの音が聞こえる所ではたまらんが、山手町をこえて、ここまで来ると大いに景観がちがってくる」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喬介は涼しい顔をして一号船渠ドックの方へ飛んでくと、間もなく、今入渠船にゅうきょせん据付すえつけ作業を終ったばかりの潜水夫もぐりを一人連れて来た。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
殊にケルソン市の岸に立ち竝んだ例のセミオン船渠ドックや、其の外雑多な工場のこちたい赤青白等の色と、眩るしい対照を為して、突っ立った煙突から
かんかん虫 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこでその夜、ぼくたちはこの荷物を海岸のギネタ船渠ドックの構内にあるぼくたちの潜水艇の中へはこびいれた。あいにく月はない。月は夜中にならないと出ない。
恐竜艇の冒険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
四辺あたり寂然さびしくひそまり返り、諸所あちこち波止場はとば船渠ドックの中に繋纜ふながかりしている商船などの、マストや舷頭にともされている眠そうな青い光芒も、今は光さえ弱って見えた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
話を少し他に転ずるが、一八八九年ロンドン船渠ドックの労働者が同盟罷業ひぎょうをして世間を騒がしたことがある。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
ソレカラ桑港の近傍に、メールアイランドと云う処に海軍港附属の官舎を咸臨丸かんりんまる一行の止宿所ししゅくじょに貸してれ、船は航海中なか/\損所そんしょが出来たからとて、船渠ドックに入れて修覆をしてれる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この辺の下層売春婦の客は、多く隣接工業地帯からの若い労働者か、テムズの諸船渠ドックに停泊中の船員なのだが、パッカアはその男を、そういう部類の筋肉労働者のいずれともらなかった。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ちょうど申分のないぎ続きですし、明日あすの上天気も万に一つ外れませんし……乗船は御承知の博多通いで甲板デッキの広い慶北丸が、船渠ドックを出たばかりで遊んでおりますから、万一御許しが願えましたら
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
黒眼鏡はるるとして、船渠ドック以外の犯罪の事実までを陳述ちんじゅつした。それは、すこしも暗惨な気分のない、明るい話をするようだった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喬介の突拍子もない細かな質問を受けて、若い技師はいささか面喰めんくらった様子を見せたが、間もなく私達の眼の前の船渠ドックを指差しながら口を切った。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
波の反射が陽炎の様にてらてらと顔から半白の頭を嘗めるので、うるさ相に眼をかすめながら、向うの白く光った人造石の石垣に囲まれたセミオン会社の船渠ドックを見やって居る。
かんかん虫 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
螺旋らせん形をした階段である。下り切った所に池があった。隅田の川水を取り入れて、作ったところの池らしい。小さい入江! こう云った方がいい。小船渠ドック! こう云った方がいい。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この大工事を引きうける会社をつのったところ、入札の結果、それは英国のトレント船渠ドック工場会社に落ちた。だから南シナ海へのりだして海中作業をやっているのは英国系の技師だった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ぼくが横浜船渠ドックへ通い出したのは、保土ヶ谷の仕事も終りかけ、留さんもほかへ移ってからである。看視長屋からすぐ上の高台に、宏壮な一軒があった。
海に突き出た船渠ドックからは喘息患者の咳のような排水の音が聞えて来る。乗客を満載した電車の列はまちはずれからはしって来ては桟橋の此方こなたで車を停め、そこで乗客を呑吐して又市の方へ駛って行く。
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
先に云った小船渠ドックの従業者が、島に二、三十戸の部落を建てて住んでいたが、船渠が成り立たないので解散になり、住民もほかへ皆移ってしまったが、その後に
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船渠ドックが起工されたり、神戸の鈴木が何か計画したりしかけたそうだが、みな物にならないで、現在は関門トンネルの開通を目前にしながらなお、工業的には無為に抛置されてあるらしい。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)