こた)” の例文
森川さんは待ちこたえられなくって、上って来たんだ。これから後の事は余り気の毒だから書くまい。第一森川さんの見識に関する。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
よろめく足を踏みこたへて、室から出ると、足音荒く階段を下りて来たが、いつもの女中が恰度丼を二つ載せた膳を持つて来た所で
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
三次は口惜しそうに呟いた、「高の知れた端唄ぐれえが、なんでこんなに胆へこたえるんだか、ぜんてえ訳が分らねえ……」
暗がりの乙松 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
之が一等支出めりが立た無くて好いのだが、只此風に、こたえる。煎餅屋の招牌かんばんの蔭だと、大分しのげる。少し早目に出掛けよう。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
と、ずしりと腕にこたえる部厚なものを繰ってゆくうちに、ふと四、五頁、貼りついている部分があるのにぶつかった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今日こんにちでは内務の一等属、何とかの係長たることを得たのだという話を長々と聴かされて、私はしびれが切れて、こたえ切れなくなって、泣出しそうだった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「……なに、もう兵糧は、四、五日分しかない? それ以上、持ちこたえる糧食は、何物もないのか。何物も」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親の死水しにみずもとらなかった不孝の罰が今身にこたえる。これからは女房子のそばを、死ぬまで必ず離れはしない。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「さあ大分吹いて来たぞ、しつかりせい。今日一ぱいだ。動けぬ様になるまで獲れい! こたへられるまで耐へるんだ、仕方がなくなつたら網位捨ててもかまはんから。」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
ジョンは、私の顏から、そのことを讀み取つたのか、いきなり、ものも言はずに、ひどくなぐつた。私は、ひよろ/\とよろけて、一二歩あとずさりして、踏みこたへた。
文「う致して、あとからまいって上座じょうざは恐入る、私は何分なにぶんにも此の寒さにこたえられないから、なるたけ囲炉裏の側へ坐らして貰いたい、今日の寒気かんきは又別段ですなア」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
心のおどるのが押え切れず、胸騒がする、気がふさぐ、もう引入れられそうでこたえられなくなって、こうかおりに染みた不断着をそのまま、かかる時、梓がくのは必ず湯島。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
踏みこたへんとせし貫一は水道工事の鉄道レイルつまづきてたふるるを、得たりと附入つけいる曲者は、あまりはやりて貫一の仆れたるに又跌き、一間ばかりの彼方あなた反跳はずみを打ちて投飛されぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
どうも恐ろしい向こう意気だ、しかも守勢を持ちこたえている。まごまごすると打ち込まれるぞ……これが十二の少年か? いや全く恐ろしい話だ。産まれながらの武辺者。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
よくよく汝をいとしがればぞ踏みこたえたるとも知らざるか、汝が運のよきのみにて汝が手腕うでのよきのみにて汝が心の正直のみにて、上人様より今度の工事しごといいつけられしと思い居るか
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
料理人 (門口に出て弥八の後姿を眺め)ヘッ、弥あ公の無法者も頭搗きを一本カマされて、こたえたと見えて、海老みたいに体を曲げて歩いてやがる。いい気味だなあ。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
何しろ、あの黒い、メタン瓦斯ガスを吐いている水の中へ頭までもぐって為事をするのだからちょっとこたえる。今は午前四時である。横浜へは行くまいと思う、何しろ金がないのだから。
唯心ばかりはしゅうとも親とも思ッて善くつかえるが、気がかぬと言ッては睨付ねめつけられる事何時も何時も、その度ごとに親の難有ありがたサが身にみ骨にこたえて、袖に露を置くことは有りながら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「しかし蔦屋も気の毒だな。身上半減は辛かろう。日頃剛愎であるだけにこんな場合には尚こたえよう。それに年来としごろ蔦屋には随分俺も厄介になった。ここで没義道もぎどうに見捨ることも出来ない」
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「打ち込んで行くか、打ち込まれるか、どうかしなければいたたまれない。とてもこのままでは持ちこたえられない……といって向こうからは打ち込んでは来まい。ではこっちから打ち込まなければならぬ」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)