繊細せんさい)” の例文
当時は婦人の身長が一体に低かったようであるが彼女かのじょも身のたけが五尺にたず顔や手足の道具が非常に小作りで繊細せんさいを極めていたという。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かの子 ここの所一寸ちょっとそういうふうな状態ですね。繊細せんさいな感覚的な拾物ひろいもの程度のものは一部の人の中に入って来てはいるけど。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
生前曹操が最も可愛がっていたのは、三男の曹植そうしょくであったが、植は華奢きゃしゃでまた余りに文化人的な繊細せんさいさを持ち過ぎているので、愛しはしても
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女の繊細せんさいなる手首が紐でこすられて血が出、それが紐の切れ端に残ったことは確かだ。こうして彼女は、遂に敗れて一命いちめいを失ったものらしい。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
歴史的意義あるネク・タイを送つて来たのではないであらうか? 僕の女性の読者なるものはいづれもかみに示したやうに繊細せんさいな神経をそなへてゐる。
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
生れつき繊細せんさいな彼の神経は、お祖母さんのそんな物の言い方を、正面からはねかえすことが出来なかったのである。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
(ははあ、ここは空気の稀薄きはくほとんど真空しんくうひとしいのだ。だからあの繊細せんさいな衣のひだをちらっとみだす風もない。)
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
◯九章において神の宇宙創造及び支配を述べて高遠なる想像を筆にのぼせたる彼は、ここに繊細せんさい微妙びみょうなる造化の一面にその豊かなる描写力を向けたのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
利助りすけ陶器とうき特徴とくちょうは、その繊細せんさい美妙びみょうかんじにありました。かれ薄手うすでな、純白じゅんぱく陶器とうきあい金粉きんぷんとで、花鳥かちょうや、動物どうぶつ精細せいさいえがくのにちょうじていたのであります。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
夫人は、車窓から、その繊細せんさいな上半身を現しながら、見送っている人達に、そうした捨台辞すてぜりふを投げた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あのかよわそうなえだぶりや、繊細せんさい楕円形だえんけいやわらかな葉などからして私の無意識の裡に想像していた花と、それらが似てもつかない花だったからであったかも知れない。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
女性の叡智や繊細せんさいな感覚が男性の趣味や感覚以上に働いたというだけのことで、古今を問わず、洋の東西を問わず、武力なき平和時代の様相はおおむね此の如きものであり、強者
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
健康だが極めて繊細せんさいな、言うに言われぬデリケートなものであったことも事実である。
あまりにも繊細せんさいに小智にそして無気力にしている近代人的なものへ、私たち祖先が過去には持っていたところの強靱きょうじんなる神経や夢や真摯しんしな人生追求をも、折には
宮本武蔵:01 序、はしがき (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この先生が板書する文字は、その巨大な体躯に似ず繊細せんさいで、いかにも綿密そうであり、算術や代数の式が黒板いっぱいに並んだところは、見た目も非常に美しかった。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
部屋の中には、夫人の繊細せんさい洗煉せんれんされた趣味が、隅から隅まで、行き渡っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
近頃のように爛熟らんじゅくした中央の文化と小役人までが皆、平家の係累をひく者に満たされて、華美に過ぎてむしろ繊細せんさいなもののみを病的に愛する官能には、北条家のむすめ達など
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや人いちばい繊細せんさいでもあり、また正邪を知り善悪の批判にあきらかな知能である。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)