糟糠そうこう)” の例文
そのちぎりは、比翼ひよくの鳥もおろかと思い、つねに生死と紙一ト重な敵中で、いわば糟糠そうこうの妻振りを、かたむけつくしていたのである。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
連合いといっても、俗に枕添まくらぞいのことではない。吾人は道庵先生に親炙しんしゃすること多年、まだ先生に糟糠そうこうの妻あることを知らない。
苦労を掛けた糟糠そうこうの妻は「阿呆な将棋をさしなはんなや」という言葉を遺言にして死に、娘は男を作って駈落ちし、そして
可能性の文学 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
糟糠そうこうの妻として一生を奉仕する覚悟があるという決意を汲みとることの出来た私たちは、孔雀のように、明るく絢爛たる色彩に全身をうずめて
野沢屋茂木氏には糟糠そうこうの妻があった。彼女は遊女上りでこそあるが、一心になって夫を助け家をとました大切な妻であった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ナポレオンはジェーエーブローの条約を締結してオーストリアから凱旋がいせんすると、彼の糟糠そうこうの妻ジョセフィヌを離婚した。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
花柳かりゅうの美なる者を得れば、たちまち養家糟糠そうこうの細君をいとい、養父母に談じて自身を離縁せよ放逐せよと請求するは、その名は養家より放逐せられたるも
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あまつさえ自分一人が幸運に舌鼓したつづみを打って一つなべ突付つッついた糟糠そうこうの仲の同人の四苦八苦の経営を余所々々よそよそしく冷やかにた態度と決して穏当おだやかでなかったから
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
主人の足裏あしうらさめあごの様に幾重いくえひだをなして口をあいた。あまり手荒てあらい攻撃に、虎伏す野辺までもといて来た糟糠そうこう御台所みだいどころも、ぽろ/\涙をこぼす日があった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
御殿絵師は古典の糟糠そうこうろうするにすぎない、絵とはもっといのちのかよった未知の真を創りだすものだ、おれはおれの絵を描きたいように描く。彼はこう云って、師の信近に叛いた。
おれの女房 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは自分の糟糠そうこうの妻の如き好伴侶はんりょで、そいつと二人きりでびしく遊びたわむれているというのも、自分の生きている姿勢の一つだったかも知れないし、また、俗に、すねに傷持つ身
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
奥さんを失った社長は悉皆すっかりくじけてしまった。糟糠そうこうの妻だったから、大打撃だったに相違ないが、あのガムシャラな人が仏道に志したのだから驚く。会社へ来ていても、数珠じゅずを手放さない。
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
サア、まことの糟糠そうこうの妻たる夫思いの細君はついにこらえかねて、真正面から
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
美奈子の母が死んだ時、父は貧乏時代を世帯しょたいの苦労に苦しみ抜いて、碌々ろくろく夫の栄華の日にも会わずに、死んで行った糟糠そうこうの妻に対する、せめてもの心やりとして、此処ここに広大な墓地を営んだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして再び越前の貧屋へ帰ってみると、糟糠そうこうの妻は留守のまに病死し、従兄弟いとこの光春も、他家へ流寓りゅうぐうし、赤貧は以前のままな赤貧であった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当時の成上りの田舎侍どもが郷里の糟糠そうこうの妻を忘れた新らしい婢妾ひしょう権妻ごんさいと称されて紳士の一資格となり、権妻を度々取換えれば取換えるほど人にうらやまれもしたし自らも誇りとした。
この金玉の身をもって、この醜行は犯すべからず。この卑屈には沈むべからず。花柳かりゅうの美、愛すべし、糟糠そうこうの老大、いとうに堪えたりといえども、糟糠の妻を堂より下すは、我が金玉の身に不似合なり。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
浪人時代から連れそうて来た糟糠そうこうの妻が、いまの境遇に満足しきって、子ども相手に他念ない姿を見ては
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さむらいたる自分が、進んでまたよろこんで、糟糠そうこうの妻や幼いものを後にのこして死所ししょに就いたという心もちは、さむらいの妻だ、おまえはよく分ってくれるだろう。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よそから来た羈旅きりょの臣ではない、譜代ふだいも譜代、家康がまだはなみずを垂らしていた幼少から、八歳にして、今川家の質子ちしにとられていた時も、ずっと、側を離れずに来た糟糠そうこうの忠臣である。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのいそいそしさ、良人の晴れの日を見た糟糠そうこうつまの風がある。
清盛は平家の塵芥じんかい、武家の糟糠そうこうなり。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(わが糟糠そうこうの妻)
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)