範囲はんい)” の例文
旧字:範圍
俗官ぞっかん汚吏おりはしばらくさしおき、品行正雅の士といえども、この徳沢とくたく範囲はんいを脱せんとするも、実際においてほとんどよくすべからざることなり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そのうえに、博士の書いてある説明は現代において、普通に知られている理学りがく範囲はんいをかなりとび出していて、かいすることがむずかしい。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
要するに普通ふつう世間に行きわたっている範囲はんいでは、読み本にも、浄瑠璃じょうるりにも、芝居しばいにも、ついぞれたものはないのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
白石の思想は一見平凡にも単調にも思えるけれども、自分の面目めんもくと生活とから生れでていないものは一つもなく、しかもその範囲はんいにおいては
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
わたし危険区域きけんくいきせんをこえない範囲はんいでよくさうふう悪戯あくぎためしをするのであつたが、しかしまた事実じじつさうかもれないとおもはれないこともなかつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
抜き身の動くのは自由自在だが、その動く範囲はんいは一尺五寸角の柱のうちにかぎられた上に、前後左右のものと同方向に同速度にひらめかなければならない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
徳川とくがわ北条ほうじょうなどという名だたる弓とりでさえも、その勢力範囲はんいへ手をつけることができないばかりか、戦時でも、野武士の区域くいきといえば、まわり道をしたくらい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
各自の職務には分限ぶんげんがあって、その範囲はんいだっするをゆるさぬ、すなわち厳格なる境界を越えてはならぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
処罰の範囲はんいが最小限度に食いとめられ、自分たちはそのけん外に立ちたいという、無意識的な希望的観測から、自然、次郎というのっぴきならないらしい「犯罪者」と
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
その脈絡みゃくらくのていどや統一とういつ範囲はんいは、もうすこしたってみねばわからぬが、とにかく一脈絡みゃくらく統一とういつとはじゅうぶんみとめることができる。みょうな変人があったものだ。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
しかしそれにったにしても到底とうてい女の範囲はんいにまで進んで来ることは出来できなかろう。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
万人は親の子でなくて、親の親の親の親等広い範囲はんいと関係があって、いわば天の子であり、その意味で、親そのものを批判ひはんし、教育し、是正ぜせいし、攻撃こうげきしているものであることを感じる。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
もしこの上にメタセシスを許し、またA語の一子音に対すべきB語子音の転訛てんか範囲はんいを拡張すればこれはさらに増加する。それがいかに増加するかは計算しようと思えばされるはずのものである。
下等士族のはいが、数年以来教育に心をもちうるといえども、その教育は悉皆しっかい上等士族の風を真似まねたるものなれば、もとよりその範囲はんいだっすることあたわず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「小愛というものだ。眼に見える範囲はんいしか愛せない。それも、愛の遊び事という程度の——」
それから少年は町から町へ漂泊ひょうはくすることを覚えた。汽車にも乗せた人があるらしい。奥羽おうう、北国の町にもかれ放浪ほうろう範囲はんいは拡張された。それらの町々でも少年の所作に変りはなかった。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
本棚には、少年読物から哲学書まで、かなり広い範囲はんいの本がならべてあった。絵の鑑賞かんしょうに関する本も二三冊あった。恭一は午前の話を思い出して、先ずそのなかの一冊を引き出してみた。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
解決をするに許多あまたの考慮をせねばならぬことであるから、ここで論ずる範囲はんいでないけれども、だいたいにおいて個人なりあるいは私設会社がなすべき経済行動は、国家社会のためといわんよりは
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
むろんすべては運命が決定することであり、私自身の意志は、次郎がかれの日記に書いているように、運命にしめつけられた、せまい自由の範囲はんいにおいてのみ動くことを許されるであろう。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)