そつ)” の例文
新字:
致して居る樣子を格子かうしそとにて承まはりしが黄昏頃たそがれごろゆゑそつのぞきし所百兩包を取出し御門跡へ納める金なりと云ひ又箪笥たんすの引出へいれたる處を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
駐在所ちうざいしよたよ」悉皆みんななかくびれるやうにしてそつかたつた。悉皆みんなしきりに輸臝かちまけにのみこゝろうばはれてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そつと物蔭へ身を忍ばせつゝ、樣子を窺つてゐると、自分の𢌞す絲車の音に自分の眠りを誘はれながら、ぼんやりと向うの土塀の上の野良猫に見入つてゐた母は
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
おほきい栗樹くりのきの下の墓地へ行つて、青草に埋れた石塔に腰打掛けて一人泣いたり、學校へ行つても、倫理の講堂でそつと『亂れ髮』を出して讀んだりした時代の事や
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
お静さんにそつと中将湯を買うて来て貰うて幾廻りも飲みましたが、効能が見えぬのでせう、お医者さんに見て貰ひたいと思うても、云へば叱られるし、お金はなしない。
(權三は彦三郎を指さして眼で知らせれば、助十もうなづいて、そつと家のうしろを廻つてゆく。)
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そつと取て懷中へ入たるを誰も知る者なかりしが其後三郎兵衞はしばらはなしをなして歸りけるあとにて四郎右衞門彼の百兩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かれ周圍しうゐにひよつとはなつた。かれるものはこれも一しんはひ始末しまつをしてるおつぎのほかにはなかつた。かれ銅貨どうくわそつたけはやしそばつてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さうして、それを先づ家の母に試みてやらうと思つて、寺のひる休みに、そつと自分の家へ忍び込んで見た。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そしてそれに相違のないことをそつと確めた上で、一人で樂しんでゐるやうなものだらうと思つてゐた。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それをそつと取出したところを、隱し目附にすつかり睨まれてしまつたので、もう動きが取れない。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
とくと聞彦三郎は大いによろここれひとへに神佛の引合ひきあはせに依て斯る噂を聞者なるべしと思ひそつと木蔭より立出たちいで此人々このひと/\ついゆきたづぬる者ならば明白に分るべしと後よりはなしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おつぎは勘次かんじやうやくにしてもとめたわづかこめそつ前垂まへだれかくしてつてつた。こめには挽割麥ひきわりまじつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
青草に埋れた石塔に腰打掛けて一人泣いたり、学校へ行つても、倫理の講堂でそつと『乱れ髪』を出して読んだりした時代の事や、——すべてなつかしい過去の追想の多くは
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
笑ひながらお梶は、萎びた乳房を握つてゐる小さな手をそつと引き離して襟をかき合はした。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
このあひだに、上のかたよりおかん出づ。權三は眼で招けば、おかんもそつと家のうしろを
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
それを襖の隙間から覗いた竹丸は、慄然ぞつとして、お駒から聽いた化猫の話が、いよ/\確められたやうな氣がした。道臣は袴も脱がずにそつと竹丸を小手招きして、便所の横の戸棚の前へ連れて行き
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
友達は羨ましさに堪へないで、夕暗に足音を偸みつつ、そつと來ては、學校の鐵柵に伸び上つて、手に/\鑄物の「小」の字をむしり取つて行つた。場所が寂しいので、小さな盜賊には都合が好かつた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)