穀屋こくや)” の例文
「そこで早速だが、神田の方はあと廻しとして、まずその雑司ヶ谷の方から聞かしてくれ。そのうち穀屋こくやで、桝屋とか云ったな」
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今、離れ岩んとこで、こねえな女頭巾おんなずきんを拾って来たよ、見ておくんなさい、こりゃあ、あの高山の穀屋こくやのお内儀かみさんの頭巾じゃあんめえか。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
裏木戸で、入れちがいに、米の袋をになったぬかだらけの男とすれちがった。穀屋こくやの若い者だった。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
只管ひたすらたのみしに重四郎もいなみ難く承知せしかば此より畔倉を師匠ししやうとして主用のひまには劔道けんだうをぞまなびける是に因て重四郎も毎度穀屋こくやへ出入致しける處に主平兵衞は殊の外圍碁ゐご
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
走りやっこ久太きゅうたが、三がにちの町飾りや催し物の廻状かいじょうを持ってきたあとから、かしらの使いが借家の絵図面を届けてくる。角の穀屋こくや無尽むじんの用で長いこと話しこんで行ったばかりだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
呉服屋では、番頭さんが、椿つばきの花を大きく染め出した反物たんものを、ランプの光の下にひろげて客に見せていた。穀屋こくやでは、小僧さんがランプの下で小豆あずきのわるいのを一粒ずつ拾い出していた。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その外にまだ弟が二人、——次男は縁家えんか穀屋こくやへ養子に行き、三男は五六里離れた町の、大きい造り酒屋に勤めてゐた。彼等は二人とも云ひ合せたやうに、滅多に本家には近づかなかつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
姉のお国は調布の女郎屋へ売ってしまい、妹のお三は府中の喜多屋という穀屋こくやへ子守奉公に出しているのだそうです
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ありゃ、飛騨の高山の名代なだい穀屋こくやの後家さんですよ、男妾おとこめかけを連れて来ているんですよ、男妾をね」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たづぬるに武州埼玉郡さいたまごほり幸手宿さつてじゆく豪富がうふの聞え高き穀物こくもつ問屋とんやにて穀屋こくや平兵衞と言者あり家内三十餘人のくらしなるが此平兵衞は正直しやうぢき律儀りちぎ生質うまれつきにて情深なさけぶかき者なれば人をあはれたすくることの多きゆゑ人みな其徳そのとく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
穀屋こくやの若い者は、そうつけ加えたが、ひょいと、お那珂の顔を見て
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくの郷里は越後の柏崎で、祖父の代までは穀屋こくやを商売にいたしておりましたが、父の代になりまして石油事業に関係して、店は他人に譲ってしまいました。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
穀屋こくやのイヤなおばさんがどうの、男妾の浅公がどうのと、口説くどきたてたあの厚かましさ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とほくする樣此後は店へ來る共あまり心安く致すべからずと申し付て後來のちをぞいましめ置たりける扨又重四郎は一兩日すぎて色よき返事を聞んものと穀屋こくやへ來りれいの如く店へ上りて種々いろ/\はなしなどなしけれ共小僧を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と、先刻の穀屋こくやの若い者が、米の袋を空にして追いついて来た。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老人は奥州の或る城下の町に穀屋こくやの店を持っている千倉屋伝兵衛という者であった。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
飛騨の高山の穀屋こくやという金持の後家さんが、箸にも棒にもかからない淫婦で、めぼしい男を片っぱしから引っかける、それがこの夏中から、男妾の浅公というのを引きつれて、白骨の温泉で
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いつのまにかくさむらの上に立ってこちらを見ているのは、例の、飛騨の高山の穀屋こくやの後家さんであります。その声を聞くと、竜之助が身顫みぶるいをしました。今の悪戯いたずらはこいつだ。年甲斐としがいもないはしゃぎ方だ。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「おかみさん、あなたという人はほんとうに罪な人ですよ……今だから申しますが、せんの旦那様のお亡くなりになった時だって、ずいぶん噂がありましたよ。穀屋こくやの家には今でも青い火が出ると、いわない人はありませんからね」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)