瞭然りょうぜん)” の例文
系図をひろげただけで一目瞭然りょうぜんであるが、彼こそは清和源氏の直流南北朝から応仁の乱を経て上野介の代にうつるまで五百余年間
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
あられのぶッき羽織に、艶の光る菅笠、十手袋をさして、ぬのわらじを穿いている。誰の目にも、一目瞭然りょうぜんたる、その筋の上役人。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そりゃ一目瞭然りょうぜんだ! やあ、この服の裂けてることは……ああ、なんという堕落した世の中になったものか!……生まれは良さそうだが
この証言の無価値であることは一目瞭然りょうぜんである。下田夫婦は、十時以後安田が何をしたか、うちの中にいたかどうかも全く知らぬはずである。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
あれぢやたとへキモノを着てゐたところで襤褸ぼろつきれでてのひらの機械油をごしごし拭きつけた人なることは一目瞭然りょうぜんぢやないか。
三つの挿話 (新字旧仮名) / 神西清(著)
と明石は言って微笑を見せていたが、悲しそうな様子は瞭然りょうぜんとわかるのであったから、不思議にお思いになるふうのあるのに困って、明石が言った。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
いずれにしてもこの書き置きが糸屋の主人自身したためたものなることはいずれの点からいっても一目瞭然りょうぜんであり
この両大家はいづれも西洋画遠近法と浮世絵在来の写生をもといとして幾度いくたびか同様の地点を描きたり。然れどもその画風の相同じからざるは一見して瞭然りょうぜんたるものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
孰方いずれにしてもそうした方が自分達も安心であるし、本家も同様であると信ずる、あなた方にしたって、胸に何の曇りもないところを写真で一目瞭然りょうぜんと示された方が
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
頑迷がんめいなる彼の思想が、瞭然りょうぜんたる義務の下に痙攣的けいれんてきなうめきを発したのも、幾度であったろう。神に対する抗争。暗い汗。多くの秘密な傷、彼ひとりだけが感ずる多くの出血。
カラアの純白まっしろな、髪をきちんと分けた紳士が、職人体の半纏着を引捉ひっとらえて、出せ、出せ、とわめいているからには、その間の消息一目して瞭然りょうぜんたりで、車掌もちっとも猶予ためらわず
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お綱の奴が急に二階へとんとん登って行った意味は一目瞭然りょうぜんであるから、さかりのついた猫の声と同様のけたたましい笑い声を耳にしては腸のよじれる思いがしたことであろう。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その才物さいぶつなるは一目いちもく瞭然りょうぜんたることにて、実に目より鼻へ抜ける人とはかかる人をやいうならん、惜しいかな、人道以外に堕落だらくして、同じく人倫じんりん破壊者の一人いちにんなりしよし聞きし時は
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
あとの言葉は云わなくてもわかったものであった。けれどもまた彼は云った。思わせぶりに沈黙したのではない。事態を一目に瞭然りょうぜんたらしめるため適当の言葉をさがしていたのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
これをこころみに、在原業平ありわらのなりひらの、「飽かなくにまだきも月の隠るるか山の逃げて入れずもあらなむ」(古今・雑上)などと比較するに及んで、更にその特色が瞭然りょうぜんとして来るのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「あっ、水だ!」と熊城は、思わず頓狂な叫び声を立てたが、跳び退いたはずみに蹌踉よろめいて、片手を左側にある洗手台せんしゅだいで支えねばならなかった。しかし、それで万事が瞭然りょうぜんとなった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
上海へ進撃するため黄浦江から敵前上陸した日本軍はここでたくさんの戦死者を出したのだが、それ以上に中国側の被害がひどかったのは、船から見える対岸の、すごい破壊の跡で一目瞭然りょうぜんだった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
教育事業も挙がらぬということは瞭然りょうぜん火を見る様であります。
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
明々白々それなるとくりの中に仕掛けられてあることが一目瞭然りょうぜんでしたから、事件の急転直下と新規ななぞの突発に、名人の目の烱々けいけいとさえまさったのは当然
「はや、敵の敗色は、瞭然りょうぜんとして来ました。もう潮時ではございませんか」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手甲てっこう脚絆きゃはん、仕着せはんてんにお定まりの身ごしらえをして、手口は一目瞭然りょうぜん、絞殺にまちがいなく、かぶっている菅笠すげがさのひもがいまだになおきりきりと堅く首を巻いたままでした。
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
たて六尺あまりよこげんのいちめんにわたって、日本全土、群雄割拠ぐんゆうかっきょのありさまを、青、赤、白、黄などで、一もく瞭然りょうぜんにしめした大地図の壁絵。——さきごろ、絵所えどころ工匠こうしょうそうがかりでうつさせたものだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)