真円まんまる)” の例文
旧字:眞圓
真円まんまるく拡がった薔薇の枝の冠の上に土色をした蜥蜴とかげが一ぴき横たわっていた。じっとしていわゆる甲良こうらを干しているという様子であった。
蜂が団子をこしらえる話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
すると紅矢は不図、昨夜ゆうべ青眼老人が机の傍に置き忘れて行った鸚鵡の空籠を見付けて、驚いて眼を真円まんまるにして尋ねた——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
と派手な友染の模様が透いて、真円まんまるな顔を出したが、あかりなしでも、その切下げた前髪の下の、くるッとした目は届く。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
菊川きくがわの里というのを谷底に望んでから、道が爪先下りになると程なく僕達は夜泣石のある茶屋に着いた。石は真円まんまるで、極く大きな雪達磨の胴ぐらいだ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
プラトーの物語に人類はもと真円まんまるの球形をしていた。顔は両面あり手も四本、足も四本あり、両性を兼ねていた。そして各人間は完全円満なものであった。
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
例のブン廻しで書いたような真円まんまるおもてに、拳を入れて余りある大きな口、眠っているような細い目の中からチラリと白い光を見せられた時は、いい気持がしませんでした。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
デミトリチのひだりほうとなりは、猶太人ジウのモイセイカであるが、みぎほうにいるものは、まるきり意味いみかおをしている、油切あぶらぎって、真円まんまる農夫のうふうから、思慮しりょも、感覚かんかく皆無かいむになって
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
古賀は本も何も載せてない破机やぶれづくえの前に、鼠色になった古毛布を敷いて、その上に胡坐あぐらをかいて、じっと僕を見ている。大きな顔の割に、小さい、真円まんまるな目には、喜の色があふれている。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ストオヴの上に落ちると、それがクルックルッと真円まんまるにまるくなって、ジュウジュウ云いながら、豆のようにね上って、見る間に小さくなり、油煙粒ほどの小さいカスを残して、無くなった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
ただ相変らず蟋蟀きりぎりすが鳴しきって真円まんまるな月が悲しげに人を照すのみ。
中にも真円まんまる磨硝子すりがらすのなどは、目金をかけたふくろうで、この斑入ふいりの烏め、と紺絣こんがすり単衣ひとえあざけるように思われる。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかるにこれを聞く外国人は、これを真円まんまると解するゆえにまるならぬものをまるうそをいうとする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それは名刹めいさつ恵林寺の大和尚として、学徳並びなしという意味において知っているのではなく、そのブン廻しで描いたような真円まんまるい顔と、夜具の袖口を二つ合わせたような大きな口と
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「一昨晩の今頃は、二かさも三かさもおおきい、真円まんまるいお月様が、あの正面へおいでなさいましてございますよ。あれがね旦那、鏡台山きょうだいざんでございますがね、どうも暗うございまして。」
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒塗り真円まんまるな大円卓を、ぐるりと輪形に陣取って、清正公には極内ごくないだけれども、これを蛇の目の陣ととなえ、すきを取って平らげること、焼山越やけやまごえ蠎蛇うわばみの比にあらず、朝鮮蔚山うるさんの敵軍へ
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しゃぼんだまではねえよ。真円まんまるな手毬の、影も、草に映ったでね。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ロイドめがねを真円まんまるに、運転手は生真面目きまじめ
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)