目許めもと)” の例文
帯腰のしなやかさ、着流しはなおなよなよして、目許めもとがほんのりと睫毛まつげ濃く、つぼめる紅梅の唇が、艶々つやつやと、しずかびんの蔭にちらりと咲く。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふと見ると、年頃廿六七にも成りましょうか色のくっきりと白い、鼻梁はなすじの通りました口元の可愛らしい、目許めもとに愛のある、ふさ/\と眉毛の濃いい女で
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
目許めもと微笑ほほえみちょうと、手にした猪口を落すように置くと、手巾ハンケチではっと口を押えて、自分でも可笑おかしかったか、くすくす笑う。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と段の下の六畳の、長火鉢の前に立ったまま、ぱっちりとした目許めもとと、可愛らしい口許で、引着けるようにして
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
撫肩なでかたの優しい上へ、笠の紐ゆるく、べにのような唇をつけて、横顔で振向ふりむいたが、すずしい目許めもとえみを浮べて
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(縁側の真中まんなかの——あの柱に、凭懸よりかかったのは太田(西洋画家)さんですがね、横顔を御覧なさい、頬がげっそりして面長おもながで、心持、目許めもと、ね、第一、髪が房々と真黒まっくろ
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
胸のおもいは火となって、上手が書いた金銀ぢらしの錦絵にしきえを、炎にかざして見るような、おもてかっと、胡粉ごふんに注いだ臙脂えんじ目許めもとに、くれないの涙を落すを見れば、またこの恋も棄てられず。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「しっとりとした、いい容子ようすね、目許めもとに恐ろしく情のある、口許の優しい、少し寂しい。」
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ますもんですか、」とわざとらしいが、つんとした、目許めもとほかは、うつくしい。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と袖をさすって、一生懸命、うるんだ目許めもとを見得もなく、仰向あおむけになって女中の顔。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あかりとともに乗出す膝を、突合した上へ乗せ合って、その時はこういう風、仏におなりの前だから、優しいばかりか、目許めもと口付、品があって気高うてと、お縫が謂えば、ちらちらと、白菊の花
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて、とろ/\の目許めもとを、横合よこあひから萌黄もえぎいろが、蒼空あをぞらそれよりく、ちらりとさへぎつたのがある。けだ古樹ふるき額形がくがた看板かんばんきざんだ文字もじいろで、みせのぞくと煮山椒にざんせうる、これも土地とち名物めいぶつである。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)