生薬屋きぐすりや)” の例文
旧字:生藥屋
手先の一人は取りあへず四谷伝馬町の生薬屋きぐすりやを取調べたが、その当日又はその前日に赤膏薬を買ひに来た侍はないと云ふのであつた。
赤膏薬 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「とんでもない。——これを長崎仕入の積りで買わされたら大変な馬鹿を見たわけだ。こんなものはどこの生薬屋きぐすりやにもありますぜ」
米友は屋根の上をきっと見る。生薬屋きぐすりやの屋根の上へ火縄銃をかつぎ上げたのは、米友も知っている田丸の町の藤吉という猟師であったから
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すると猿股の勢力はとみに衰えて、羽織全盛の時代となった。八百屋、生薬屋きぐすりや、呉服屋は皆この大発明家の末流ばつりゅうである。猿股期、羽織期のあとに来るのが袴期はかまきである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父は洋服に着換る為め、一先ひとまず屋敷へ這入る。田崎は伝通院前でんずういんまえ生薬屋きぐすりや硫黄いおう烟硝えんしょうを買いに行く。残りのものは一升樽いっしょうだるを茶碗飲みにして、準備の出来るのを待って居る騒ぎ。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
父は漢法医の業を廃した人だったので、紙に三つの漢字を書いて、近くの生薬屋きぐすりやに求め、それをこなにしてんだが少しもうまいものでなく、第一に分量が多いので閉口した。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「——行くんならね、普通の生薬屋きぐすりやへ行つても駄目なんださうだ。広小路の先の、たしか黒門町あたりに、ゐもりの黒焼屋が沢山ならんでゐるね、あそこで売つてゐるんださうだ」
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
呂方は、あだ名を小温侯しょうおんこうという、根は生薬屋きぐすりやあがりだが、方天戟ほうてんげきの無双な達人。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いいえ。だって何処へ行っても薬のにおいがするんですもの。家も生薬屋きぐすりやですけれど、向う三軒両隣り皆生薬屋よ。神田の古本屋よりも激しいわ。全く軒並みよ。道修町って妙なところでしょう?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
生薬屋きぐすりや看板かんばんだよ。梅「あれは……。近「糸屋いとや看板かんばんだ。梅「へえゝ……あれは。近「人が見て笑つてるに、水菓子屋みづぐわしやだ。梅「へえゝ……あ彼処あすこまアるいものはなんです、かういくつもるのは。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
実際支那人の言つたやうに「変らざるものよりして之を見れば」何ごとも変らないのに違ひない。僕もまた僕の小学時代には鉄面皮てつめんぴにも生薬屋きぐすりやへ行つて「半紙はんしを下さい」などと言つたものだつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
腕白な方ではK町の生薬屋きぐすりやの忰の西村と云うのが隊長であった。
小さな王国 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのすぐ近所に甲州屋という生薬屋きぐすりやがあって、そこのおなおという娘がお粂のところへ稽古に通っているのを、半七も知っていた。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いや、そういうわけじゃない、第一あんな激しい毒薬は、江戸中の生薬屋きぐすりやを捜したってない、——南蛮物なら知らないが——」
よく見るとこれは一軒の生薬屋きぐすりやの店を仕切って、その狭い方へこざっぱりした差掛さしかけ様のものを作ったので、中に七色唐辛子なないろとうがらしの袋を並べてあるから、看板の通りそれを売るかたわ
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「鮫洲の金造……。あいつならわっしも知っています。現にきのうも品川で逢いましたよ。生薬屋きぐすりやの店で何か買っていました」
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、町内の医者や、目黒から白金しろがね麻布あざぶ一円の生薬屋きぐすりやを調べさした子分が帰って来ると、兼吉のした事はすっかり引くり返されてしまいました。
彼は久しぶりに下谷の車坂くるまざかへ出て、あれから東へ真直まっすぐに、寺の門だの、仏師屋ぶっしやだの、古臭ふるくさ生薬屋きぐすりやだの、徳川時代のがらくたをほこりといっしょに並べた道具屋だのを左右に見ながら
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「芝口の下駄屋の娘で、兄貴は家の職をしていて、弟は両国の生薬屋きぐすりやに奉公しているそうです」と、源次は説明した。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
石見銀山の鼠取ねずみとりを酒で呑んで、一緒に死ぬ気でいましたがいざとなって石見銀山が手に入らなかったので、本郷三丁目の生薬屋きぐすりやで、附子ぶしを買って来て酒に入れ
それを心から感心して見るのは、どうしたって、本町の生薬屋きぐすりや御神おかみさんと同程度の頭脳である。こんな謀反人むほんにんなら幾百人出て来たって、徳川の天下は今日までつづいているはずである。
かげってはいるが、きょうは雨やみになっているので、半七はあさ飯の箸をくとすぐに町内の生薬屋きぐすりやへ行った。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「お銀さんがみんな知っている。手前は大名のお部屋様を口説き廻したろう、ふてえ奴だ、——もっと証拠が欲しかったら手前が鼠取りを買った生薬屋きぐすりやれて来ようか」
「いいえ。一軒いて隣りの備前屋という生薬屋きぐすりやの娘さんでございます」と、勘蔵は答えた。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今から十一、二年前のことだが、私は偶然のことから気がついて生薬屋きぐすりやからいぼたを買って来た。ちょうど刀の打粉うちこのように金巾かなきんの袋に入れてレコード面にたたきつけて拭いて見た。
うすら寒い日も毎日つづいた。半七もすこし風邪をひいたようで、重い顳顬こめかみをおさえながら長火鉢のまえに欝陶うっとうしそうに坐っていると、町内の生薬屋きぐすりやの亭主の平兵衛がたずねて来た。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その晩、佐久間町の生薬屋きぐすりやへ、「疾風」が押し入りました。
「ところが、親類に生薬屋きぐすりやがあるんですがね」
「それから、生薬屋きぐすりやはどうした」