ぎゅう)” の例文
そのころぎゅうなべをつつくのは、ひんのわるいものがやることで、いれずみをしたまちのごろつきと、適塾てきじゅく書生しょせいとにかぎられていました。
吾輩が驚ろいて、からだの泥を払っているに黒は垣根をくぐって、どこかへ姿を隠した。大方西川のぎゅうねらいに行ったものであろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二十年前に、上野の何とか博覧会を見て、広小路のぎゅうのすき焼きを食べたと言うだけでも、田舎に帰れば、その身に相当のはくがついているものである。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こんねえだ俺ら、新やんで聞いたけんど、工場さ行ぐと、毎日めえんち毎日めえんちぎゅうばっか食わして、衣裳までくれんだって……
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「殿様、とりあえずぎゅうを召上れ、まず当節は牛に限りますな、ことに築地の異人館ホテルの牛の味と来ては、見ても聞いてもこたえられねえ高味こうみでげす」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「田舎ものめ、河野の邸へ鞍替くらがえしろ、朝飯にぎゅうはあっても、てえの目を食った犬は昔から江戸にゃ無えんだ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第三十一 牛肉のスープ は新しいぎゅうすねを骨とも一斤小さく切って四合の水と小匙一杯の塩とを加えて沸立にたった時アクを取って玉葱たまねぎ人参にんじんを入れて三時間以上弱火とろびで煮ます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
若者は滅茶滅茶にソースをぶっかけた「ぎゅうてん」をおかずにして、メシを食っていた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
ぎゅう、ミルクに、ソップにバタ、しゅしゅらしゅんげ(ひげの事)の長いナッポレオンだね、そうら三杯酢は、すっぱいものだね、猫とんびにかっぱのったれかっぱ、とって投げほい」
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
赤々としたぎゅうの肉のすこし白い脂肪あぶらも混ったのを、亭主は箸で鍋の中に入れた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一行はあるいは山水の奇勝を写真に撮り、或いはゆるゆる写生などをし、もうぎゅう的剛力も余程遠くへ行っているだろうと思い、急足きゅうあし半里はんみちばかりも進んでみると、剛力先生泰然自若と茶屋に腰打ち掛け
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
十銭のぎゅうを七人で食うのだから、こうしなければ食いようがなかったのである。飯はかまからしゃくって食った。高い二階へ大きな釜をげるのは難義であった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから友達のところへ泊って、ぎゅうおごってね、トランプをして遊んでいたんだ。僕あ一番強いんだぜ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これでなかまをさそって牛肉屋ぎゅうにくやへいって、ぎゅうなべをつつきながら、さけをのみました。
広小路のぎゅうがおいしかったのである。どんな進歩があったろうか。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「何別にこれという理由わけもなかったのだけれども、——ついあすこいらでぎゅうが食いたくなっただけの事さ」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぎゅうよろしい……書生流に、おおん。」
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
振り向いて見るとビーフ・イーターである。ビーフ・イーターと云うと始終ぎゅうでも食っている人のように思われるがそんなものではない。彼は倫敦塔の番人である。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その牛肉屋のぎゅうが馬肉かもしれないという嫌疑けんぎがある。学生は皿に盛った肉を手づかみにして、座敷の壁へたたきつける。落ちれば牛肉で、ひっつけば馬肉だという。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吾輩は急にからだが大きくなったので、椽側一杯に寝そべって、迷亭の帰るのを待ち受けていると、たちまち家中うちじゅうに響く大きな声がしてせっかくのぎゅうも食わぬに夢がさめて吾に帰った。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)