煙硝えんしょう)” の例文
夜が明けると、相も変らず寄せ手の激しい攻撃が始まって、鉄炮の音、煙硝えんしょうの匂、法螺貝ほらがい、陣太鼓、ときの声などが一日つゞいていた。
その世界では煙硝えんしょうにおいの中で、人が働いている。そうして赤いものにすべって、むやみにころぶ。空では大きな音がどどんどどんと云う。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのころは煙硝えんしょうもない、ダイナマイトもないときでございましたから、アノ穴を掘ることは実に非常なことでございましたろう。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
舞台では何か軍事劇の幕があいているところと見えて砲声と共に楽屋の裏まで煙硝えんしょうにおいが漂い、軍歌の声も聞えてくるのである。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「鉄砲の音のようでした。驚いて音のした方へ飛んで行くと、川の方へ向いた部屋は煙硝えんしょうにおいで、お仏壇の前には、旦那がこんな具合に」
それだけのことであった。別に爆発物の破裂しそうな煙硝えんしょうの匂いもしなかったし、イペリット瓦斯ガスの悪臭も感じられなかった。座中の或る者が
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
身体は一旦、うつぶせに倒れ、斜面の反動で少し向きを変えた。煙硝えんしょうの匂いがその時初めて宇治の嗅覚にのぼって来た。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そうした冬枯の景色の間を、背嚢はいのうの革や銃の油の匂、又は煙硝えんしょうの匂などを嗅ぎながら、私達は一日中駈けずり廻った。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
打った奴があるそうだ。金さん、お前もそんなことになるといけねえから、わしの見ぬところで煙硝えんしょういじりは御免だよ
もう——と、煙硝えんしょうくさいたまけむりが、釣瓶つるべうちにはなす鉄砲の音ごとに、やぐらの上までまきあがってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身には揚心流小太刀の奥義おうぎがあっても、何しろ対手の武器は飛び道具でしたから、叫びつつも京弥がたじろいでいるとき、再びぱッときな臭い煙硝えんしょうの匂いが散るや一緒で
「さあ野郎ども口火を切れ!」声に応じて煙硝えんしょうの匂いがプンとどこからともなく匂って来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と思った時には、ブスッというふるえ上る様な音がして、煙硝えんしょうにおいがパッと鼻をうった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「それに、あの家から、ときどき煙硝えんしょうの匂いがするそうですよ、隠し鉄砲は遠島だ。それだけでも何とかなりゃしませんか」
と、のみを取り上げた。初さんと自分は作事場さくじばを出る。ところへけむが来た。煙硝えんしょうにおいが、眼へも鼻へも口へも這入はいった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのあたりは、一面に煙硝えんしょうの臭気はするが、火は消えてしまっている。外部からもなんら闖入ちんにゅうの気色はない。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そしておのおの黒衣素足こくいすあし、手に牙剣がけんをひっさげ旗を捧げ、腰には葫芦ころをかけて内に硫黄いおう煙硝えんしょうをつめこみ、山陰にかくれていて、郭淮の部下がわが王平軍を追いちらし
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
胸をふさぐような煙硝えんしょうの臭い、叫び声をあげてける砲弾、悪魔が大口を開いたような砲弾の炸裂、甲板かんぱんに飛び散る真紅な鮮血と肉塊にくかい、白煙を長く残して海中に墜落してゆく飛行機
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ぷんと煙硝えんしょう口火の匂いが風に送られて参りましたのでハッと驚き目をそばめじっと向こうを眺めましたところ、あろうことかあるまいことか、右衛門殿のたたずみいる大岩のすそに地雷火を伏せ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「フン、まだ煙硝えんしょうにおいが残っている」
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「傷口の具合や煙硝えんしょうの匂いなどから、佐渡屋の主人は鉄砲で撃たれたらしいんだ。隣に住んでいるお前に、それがわからなかった筈はあるまい」
それは油か、煙硝えんしょうかの助けがなければ、到底こんなに早く火が廻るはずがないと思われたほど早かったと、その場に居合わせたもののように言う者さえある。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ありがとう、ありがとう。だが、おじさん——じゃあない可児さま。あなたも早くここをりて、どこかへ逃げださないと、もうそろそろ煙硝えんしょうの山が爆発ばくはつしますよ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ほう、この花は、非常に煙硝えんしょうくさい。おや、それに、なめてみると、塩辛しおからいぞ、海水に浸っていたんだ。すると、この花は、船の上にあった花ではない、海の中にあった花だ。これは、ふしぎだ」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「川の中からだって撃てるよ。尤も船から撃てば、煙硝えんしょうの煙は川へ散って、家の中までは大して匂わないだろうが」
谷のうちには数条の塹壕ざんごうを掘り、さいの諸所には柴を積み、硫黄いおう煙硝えんしょうを彼方此方にかくし、地雷を埋め、火を引く薬線は谷のうちから四山の上まで縦横に張りめぐらして
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上に三輪の神杉へも鉄砲の煙硝えんしょうを振りまいて火をつけるよ、そうして薬屋の者も丹後守の奴めも、殺せるだけ殺して、わしはその火の中で焼け死ぬのだ、いいかい——
先頭に立てて来た一団の爆火船隊——煙硝えんしょう、油、柴などの危険物を腹いっぱい積んで油幕ゆまくをもっておおい隠してきた快速艇や兵船は——いちどに巨大な火焔を盛って、どっと
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
化かしても化かし甲斐かいがないものと狐にまで見限られたか、それとも、彼等には大の禁物な飛道具や、煙硝えんしょうの臭いで寄りつかぬものか、絶えて今まで悪戯いたずららしい形跡も見えなかったが
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
火縄が、チラと関金せきがね煙硝えんしょうへ口火を点じかけた。——と、間髪をれなかったのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは十津川とつがわでやられた。京都から引返して来るときに、伊賀の上野で天誅組の壮士というのにつかまり、それと一緒になって十津川へ後戻り、山の中で煙硝えんしょうの煙に吹かれてこうなってしまった」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
煙硝えんしょうくさい煙は、うすい霧のように、伊織の背を越えて行った。——その彼方の樹、武蔵の横にある樹、また、道の行くて、道の後方うしろ——すべての物の陰には、槍の穂か、刃かが、ひそんでいた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ええ、煙硝えんしょうの煙で、お目を悪くしてしまったのだそうですよ」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「これは煙硝えんしょうで焼かれたのです」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)