のぼ)” の例文
わしは長良川ながらがわの上流を、十里余ものぼって、たった独りの老母おふくろがいるせき宿しゅくの在、下有知しもずちという草ぶかい田舎いなかへ一本槍に帰って来た。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾度ものぼりつけた浅い明るい川上の彼方まで、今まではおのづと楽な道が通じてゐた。飛び越し難い石から岩へは彼が渡した板切れの橋がかけてあつた。
山を越えて (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
向うにも一つたきがあるらしい。うすぐろい岩の。みんなそこまで行こうと云うのか。草原があって春木もんである。ずいぶんのぼったぞ。ここは小さなだんだ。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
文科の艇ではその日珍らしく弁当を持って上流の方へ漕ぎのぼって練習して見ようということになった。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
「美人はともかく、船で川崎までのぼるのは思いつきだ。早速、その用意をして貰おう」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「兵曹長さん。まるで揚子江の上流をのぼってるようですね。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
大小七隻の船に、梁山泊のかしら分二十九人、乾分こぶん百四、五十人が乗りわかれ、こうのぼって無為軍むいぐんの町へ忍んだのは翌晩だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時、海岸のいちばん北のはじまでのぼって行った一人が、まっすぐに私たちの方へ走ってもどって来ました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「渡らん、渡らん、大江の水、のぼらん、溯らん、千里の江水こうすい。——青春何ぞ、客園の小池に飼われて蛙魚泥貝あぎょでいばいの徒と共に、惰眠だみんをむさぼらんや」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だんだんのぼって、とうとうさっき青いくしゃくしゃのたまのように見えたいちばんはずれの楊の木の前まで来ましたがやっぱり野原はひっそりして音もなかったのです。
鳥をとるやなぎ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
宮井でのりかえ、べつなプロペラ船で、本宮村へのぼる。着いたのが、もう夕方に近い。「ここが本宮か?」と、寒さにふるえながら村道の辻に立つ。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつかもこゝをのぼって行った。いゝや、此処ここぢゃない。けれどもずゐぶんよく似てゐるぞ。川の広さも両岸の崖、ところどころのの青草。もう平らだ。みんな大分溯ったな。
台川 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
さきに石田佐吉がいったことばの通り、梓川あずさがわの渓流は、それに沿ってのぼっても溯っても水源らしくならなかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつかもここをのぼって行った。いいや、此処ここじゃない。けれどもずいぶんよくているぞ。川の広さも両岸りょうがんの崖、ところどころのの青草。もう平らだ。みんな大分溯ったな。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
瀕死ひんしの城兵に、かてを入れるため、毛利方では、運送船五隻に、兵船十隻をもって護衛にあたらせ、海上から決死の覚悟で、賀露川かろがわのぼって来たのであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じつにいいれきだ。まっ白だ。まん円だ水でぬれている。ってしまった。だれかがまたまわす。もうない。あとは茶色だし少し角もある。ああいいな。こんなありがたい。あんまりのぼる。もう帰ろう。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それはいいが、遂に、戦争は近くのせき宿しゅくから、この下有知しもずちまで飛火して来た。長良川をのぼって攻めて来た稲葉山の兵は、下有知の民家へ火をけやがった。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木がいっぱい生えているから谷をのぼっているとまるで青黒いトンネルの中を行くようで時にはぱっと緑と黄金きんいろに明るくなることもあればそこら中が花が咲いたように日光が落ちていることもある。
なめとこ山の熊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
てまえどもは年々、北の産物を積んでは南へ下江し、南の物資を求めては北へのぼり、ここの嘉魚かぎょのように季節次第で河を上下している商人どもに相違ございません。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
耕一の家は学校から川添かわぞいに十五町ばかりのぼった処にありました。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
だが、のぼり舟は、いとど遅い。また、若公卿の弁舌も酒気にがれて、とどまることを知らなかった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょう鉄梃かなてこをもって下流の方からのぼって来るのを見ました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
とばかり、疾風雲はやてぐものごとく、河川をのぼり、野を踏破して、昼夜わかたず、華州かしゅうへ急行したのだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ずゐぶんのぼったぞ。こゝは小さな段だ。
台川 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
しかし、向うは下って行く船、こっちはのぼって行くところ、見る間に間はずッと開いてしまう。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小十郎は白沢の岸をのぼって行った。
なめとこ山の熊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そこでこの七名は、気をそろえて、淀をのぼる夜船の船脚とおよそ足の早さを共にしながら
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大学士はどこまでものぼって行く。
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
命をうけると、諸葛瑾はすぐ江船の奉行に帆支度をいいつけ、書簡を奉じて長江をのぼった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大学士はどこまでものぼって行く。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
まさか一夜にしてその積年の障壁が外交工作によってとりのぞかれ、魏呉友好をむすんで、呉の大艦船が長江をのぼり、荊州を圧そうなどとは夢想もできない転変だったにちがいない。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いやいや、急がねば駄目だぞ。淀ののぼりは、今ごろ出るのがたしか仕舞い船の筈」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
定めて、ちん自ら水陸の軍をひきい、討魏の大旆たいはいをかかげて長江をのぼるであろう
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一時はどうなることかと恐れ、また彼らの体臭に近づきかねていた男女も、みるみるうちに、彼らのとぼけや冗談に巻きこまれて、舟は和気藹々あいあいさえずりを乗せて、大河の午後をなおのぼっている。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠くのぼって、陸口りっこう(漢口の上流)の塞外さいがい、臨江亭に会宴をもうけ、一日、関羽を招いてよく談じ、もしきかなければ、即座に彼を刺し殺してしまいますが……いかがでしょう、お任せ下さいますか
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
源吉は、をねじッて、ぎっぎっと、川をのぼった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これからですよ、乗りかえて、淀をのぼるのは」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舟は、大川をのぼっていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)