渇望かつぼう)” の例文
眠りは、ないか。もっと、もっと、深い眠りは無いか。あさましいまでに、私は、熟睡を渇望かつぼうする。ああ、私は眠りを求める乞食こじきである。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そしてかれのたましいは、この神の輪舞りんぶに加わりたいと渇望かつぼうした。巨大な、木製のみだらな象徴が、むき出しにされて高くかかげられた。
けれども腹はなかなかえない。なおその喰っただけが食物を渇望かつぼうする動機になったものかぐうぐう腹が鳴って仕方がない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
だから古来の名将は、かならずその渇望かつぼうをむなしくしない。いや、戦うまえに、その意義と正義を旗のうえに持たなければ、戦わないのが兵法である。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の上は、速かに解除警報の御許可を、お与え下さい。市民は、軍部の、正しいアナウンスを、渇望かつぼうして居ります。一刻おくれると、市民の混乱は拡大いたします」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今までは政治界で崇拝される英雄もあり、実業界で崇拝される金満家もあるけれども人の家庭で崇拝される偉人がない。しかるに人の家庭は今最も救世主を渇望かつぼうしておる。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
わたくし人並ひとなみ生活せいかつこのみます、じつに、わたくしはこう窘逐狂きんちくきょうかかっていて、始終しじゅうくるしい恐怖おそれおそわれていますが、或時あるとき生活せいかつ渇望かつぼうこころやされるです、非常ひじょう人並ひとなみ生活せいかつのぞみます、非常ひじょう
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
大佐たいさ好遇かうぐうにて、此處こゝで、吾等われら水兵等すいへいらはこんで珈琲カフヒーのどうるほうし、漂流へうりう以來いらいおほい渇望かつぼうしてつた葉卷煙葉はまきたばこ充分じゆうぶんひ、また料理方れうりかた水兵すいへい手製てせいよしで、きはめてかたち不細工ぶさいくではあるが
いつは以てうち政府せいふを改良するの好手段たり、一挙両得の策なり、いよいよすみやかにこの挙あらん事を渇望かつぼうし、かつ種々心胆をくだくといえども、同じく金額の乏しきを以て、その計画成るといえども
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
私は今までかつて感知したことのなかったまぼろしの社会というものに対して渇望かつぼうしていたので、実生活の間にそれをあさると同時に、わたしの幽霊の伴侶つれに長いあいだ逢えないでいるということに
と、張飛は、自身の剣をすぐ解き捨て、渇望かつぼうの名剣を身にいていかにもうれしそうであった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世の俗物どもを大声で罵倒ばとうしたいと渇望かつぼうした。
やんぬる哉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「お取り上げになる日を、わたくしたち、どれほど渇望かつぼうしているか知れませぬ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはあたっていた。さっきから信長の眼はそれを明らかに渇望かつぼうしている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が随喜ずいきしたものは、彼が産も家系もない庶民の一人だけに、かえって正直に理解される現状の世の中の悪さと、将来に渇望かつぼうされるものにあった。——人よりも、その革新精神の旗じるしにあった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けいら、渇望かつぼうの水、飽くほど飲むべし。これやこれ、末期まつごの水ぞ)
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)