深手ふかで)” の例文
たとい深手ふかででないにしても、流れる生血なまちを鼻紙に染めることになったので、茶屋の女房は近所の薬屋へ血止めの薬を買いに行った。
恨みの蠑螺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
深手ふかでに苦しむものは十人ばかりある。それも歩人ぶにんに下知して戸板に載せ介抱を与えた。こういう時になくてならないのは二人の従軍する医者の手だ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
河内介の目算は此の怪しい武士に深手ふかでを与え、進退の自由を奪った上でりにすることにあった。
でもそれにしては、切られた人が、あの深手ふかでで、どこへ立去ることが出来たのでしょう。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、かぜ建物たてもの無惨むざん傷口きずぐちをなで、あめつち深手ふかでしずかにあらったのです。そのうち、ところどころあたらしいいえちはじめ、人々ひとびとによって、えられた木立こだちは、ふたたびはやしとなりました。
春はよみがえる (新字新仮名) / 小川未明(著)
指貫さしつらぬき候ひぬ然ども勇氣の喜内樣故さゝれながらも跳返はねかへし給ひ短刀にて唯一うちにと切掛きりかけ給ひしが御病中と云深手ふかでおはれし上なれば御くらみて吾助が小鬢こびんを少し斬れしのみ折柄をりから燈火ともしびきえければ吾助は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
薩摩方の武士は落馬した異人の深手ふかでに苦しむのを見て、六人ほどでその異人の手を取り、畑中へ引き込んだという。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
聞共一かう言舌ごんぜつわかかね宿やども知れざれば其儘そのまゝ手當てあてをさせおき瀬川せがは口書くちがきを取て檢使けんしは立歸りみぎおもむき申立しに大岡殿おほをかどのにげたる手負ておひ深手ふかで淺手あさてかとたづねらるれば二のうでふかかほきずすこしならんと瀬川申候といふ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)