洋袴ずぼん)” の例文
市郎は衣兜かくし紙入かみいれから紙幣を探り出して、黙って男の手に渡すと、彼は鳥渡ちょっと頂いてすぐに我が洋袴ずぼん衣兜かくし捻込ねじこんでしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
またくつなかれる。うしても二足にそくつてゐないとこまる」とつて、そこちひさいあなのあるのを仕方しかたなしに穿いて、洋袴ずぼんすそ一寸いつすんばかりまくりげた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
太い並木の影に、見覚えのある合の洋袴ずぼんをはいた九太が伊代の後からのれんを掻きわけて這入って来た。
帯広まで (新字新仮名) / 林芙美子(著)
左の手はしょっちゅう洋袴ずぼんのポケットへ入れていましたが、胸のハンカチを取出すとき、案外白い大きい手の無名指くすりゆびにエンゲージリングの黄ろい細金がきらりと光ったのを覚えています。
扉の彼方へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お若は力なげに洋袴ずぼんをかけ、短胴服チョッキをかけて、それから上衣をひっかけたが、持ったまま手を放さず、じっと立って、再びそっ爪立つまだつようにして、を隔ってあたかも草双紙の挿絵を見るよう
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くつばかりぢやない。うちなかまでれるんだね」とつて宗助そうすけ苦笑くせうした。御米およね其晩そのばんをつとため置炬燵おきごたつれて、スコツチの靴下くつした縞羅紗しまラシヤ洋袴ずぼんかわかした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
続いて𤢖の為に左のももきずつけられた。加之しかも二度目の傷は刃物で突かれたと見えて、洋袴ずぼんにじみ出る鮮血なまち温味あたたかみを覚えた。究竟つまり彼は左の片足に二ヶ所の傷を負っているのであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
洋袴ずぼんの割股で押上った。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おゝ、うだつたか」とひながら、はなは面倒めんだうさうに洋服やうふくへて、何時いつものとほ火鉢ひばちまへすわつた。御米およね襯衣しやつ洋袴ずぼん靴足袋くつたび一抱ひとかゝへにして六でふ這入はいつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)